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409【心理検査】児童相談所では障害者手帳を交付する際、なぜ田中ビネー式知能検査Ⅴを使うのか

 

田中ビネー式知能検査Ⅴの専門家として、発達に課題を抱えるお子さんの支援に携わる中で、療育手帳(知的障害者への障害者手帳)の判定において、田中ビネー式知能検査V(以下、田中ビネーV)が広く利用される理由について、その歴史的背景、検査の特性、そして臨床的な利点から詳しくご説明します。

 

 

 

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1. 療育手帳制度と田中ビネーVの役割

 

まず、療育手帳制度における知能検査の位置づけを明確にすることが重要です。

 

 

1-1. 療育手帳の法的・行政的背景

療育手帳制度は、知的障害を持つ方への一貫した福祉的支援を提供する目的で、1973年に厚生省(現・厚生労働省)の通知に基づき創設されました。手帳の交付主体は都道府県または政令指定都市であり、判定業務は主に児童相談所(18歳未満)または知的障害者更生相談所(18歳以上)が担います。

 

 

知的障害の判定基準は、「知能検査の結果」「適応行動の評価」の二つの柱で構成されます。特に、知能検査の結果は、手帳の等級(最重度、重度、中度、軽度など)を決定する際の重要な客観的指標となります。

 

 

1-2. 知能の評価基準の歴史的経緯

 

日本の知的障害の判定基準は、長い間、精神年齢(MA)生活年齢(CA)を基にした知能指数(IQ)、特にビネー式検査の結果に大きく依拠してきました。これは、日本の知的障害児教育や福祉の歴史において、ビネー式検査が最も早くから導入され、広く普及していたことに由来します。

 

 

この歴史的経緯から、行政機関である児童相談所や相談所では、一貫性過去のデータとの継続性を重視する傾向があり、長年にわたり信頼性の高い実績を積み上げてきた田中ビネーVが、事実上の標準的ツールとして定着しています。

 

 

 

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2. 田中ビネーVが持つ検査特性上のメリット

 

WISC-V検査やKABC-IIといった他の検査と比較して、田中ビネーVが療育手帳判定に適しているとされる、検査固有のメリットがあります。

 

 

 

2-1. 測定可能範囲の広さと「精神年齢(MA)」の算出

 

これが、田中ビネーVが選ばれる最も大きな理由の一つです。

 

 

① 非常に低い年齢層からの測定

 

田中ビネーVは2歳0ヶ月から成人までと、WISC-V検査(5歳0ヶ月〜)よりも測定可能範囲が非常に広く、特に乳幼児期からの発達遅滞の評価に対応しています。児童相談所は、早期の支援が必要な未就学児を多く担当するため、低年齢から使用できる検査は必須です。

 

 

② 精神年齢(MA)の算出

 

田中ビネーVは、元来のビネー式検査の伝統に基づき、「精神年齢(MA:Mental Age)」を算出します。

 

知的障害の判定、特に重度や最重度の判定において、「この子は精神的に何歳相当の課題が遂行できるか」という精神年齢は、支援計画を立てる上でも、障害の程度を行政的に判断する上でも、直感的かつ具体的に把握しやすい指標として重宝されます。WISC-Vのような偏差知能指数(同年齢集団内での位置を示す)のみを算出する検査では、この精神年齢を直接得ることができません(推測は可能ですが、田中ビネーVの方が直接的です)。

 

 

2-2. 測定項目と構成の特性

 

田中ビネーVは、認知能力を年齢段階別に、言語、記憶、知識、推理、視知覚など、多様な側面から測定します。

 

 

① 知的能力の「総合的」な評価

 

WISC-V検査がVCI, WMI, PSIなどの特定の認知機能の「構造」を深く掘り下げるのに対し、田中ビネーVは、その年齢の子どもが「日常生活で獲得すべき様々な課題」を総合的に測定する傾向があります。これは、知能と適応行動の関連を評価する療育手帳の判定に、より馴染みやすいアプローチと言えます。

 

 

② 項目数の多さによる精度の確保

 

田中ビネーVは、各年齢段階で複数の課題が設けられています。特に知的障害の判定基準となるボーダーライン付近の知能レベルでは、多くの課題を通じて確かなデータを得ることが、等級判定の客観性を担保する上で重要となります。

 

 

 

 

3. 行政機関(児童相談所)での運用上のメリット

 

児童相談所という行政機関で、田中ビネーVが優先されるのには、検査の特性以外にも、運用上の実際的なメリットがあります。

 

 

3-1. 検査の施行容易性と所要時間

 

田中ビネーVは、WISC-Vと比較して、実施にかかる時間や手続きが比較的シンプルな傾向があります。

 

 

実施時間:

 標準的な田中ビネーVの実施時間は、WISC-V(通常60~90分)よりも短い場合が多く、特に相談所のように限られた時間で多くの子どものアセスメントを行う必要がある機関にとって、効率性が高いことは大きなメリットとなります。

 

 

検査マニュアルの習熟:

 田中ビネーVは、多くの児童心理司や判定員にとって、伝統的に習熟してきた検査であり、その実施や採点、解釈に関するノウハウが組織内に蓄積されています。新しい検査(WISC-Vなど)を導入する際の再教育のコストや時間を削減できます。

 

 

 

3-2. 過去データとの継続性(縦断的な評価)

 

児童相談所では、子どもが乳幼児期から学童期、そして成人期に至るまで、数十年にわたるデータを蓄積・参照する必要があります。

 

 

データの比較可能性:

 田中ビネーVは、その前身であるビネー式検査から、長期間にわたり日本の福祉・教育分野で使われてきました。過去のデータや記録がビネー式の結果に基づいている場合、**田中ビネーVの結果はそのデータと最も整合性が高い**ため、子どもの発達を縦断的に比較する際に混乱が少ないという利点があります。

 

 

行政手続きの安定性:

 等級の変更や再判定の際にも、一貫した検査様式を用いることで、行政手続きの安定性公平性の確保がしやすくなります。

 

 

 

3-3. 知的障害の判定への「特化」

 

WISC-VやKABC-IIが、SLD(学習障害)や特定の認知機能の偏り(VCIとPSIの乖離など)といった学習上の課題の分析に重きを置くのに対し、田中ビネーVは、知的障害の「有無」と「程度」を評価するという、より基本的な目的に特化しています。療育手帳の判定は、まさにこの目的に合致しており、検査の目的と行政のニーズが一致しています。

 

 

 

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4. 課題とWISC-Vとの併用

 

田中ビネーVには多くのメリットがありますが、ベテランの精神科医・公認心理師として、その限界も理解しておく必要があります。

 

 

 

4-1. 認知構造の分析の限界

 

田中ビネーVは、WISC-Vのように特定の認知機能の構造(VCI, WMI, PSIなど)を詳細に分析するのには向きません。

 

 

支援計画への落とし込み:

 「MAが4歳相当」という結果は出せても、「その低いMAは、ワーキングメモリの脆弱性によるのか、処理速度の遅さによるのか」といった、具体的な学習困難の原因までは特定しにくいです。

 

 

教育・福祉的な介入:

 現代の支援では、単に障害の程度を知るだけでなく、「その子どもの強みと弱みを活かした学習方法」を提案することが求められています。この点において、WISC-Vが提供する詳細な認知プロファイルの分析の方が、教育的な介入戦略の立案には優れています。

 

 

 

4-2. 児童相談所での現実的な運用

 

実際には、多くの児童相談所や福祉機関で、田中ビネーVとWISC-Vを併用するケースが増えています。

 

 

●田中ビネーV: 療育手帳の等級決定という「行政的な判定」のために使用

 

●WISC-V: 知的障害の有無に関わらず、「教育的・臨床的な支援戦略の立案」のために使用。

 

 

つまり、田中ビネーVは、長年の歴史とMA算出能力という特性から、「制度的な要件」を満たすための標準的な検査として依然として重要であり続けているのです。

 

 

 

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結論

 

発達に課題がある子どもに療育手帳を付与する判定において、田中ビネー式知能検査Vが選ばれる主要な理由は、以下の歴史的、検査特性上、および行政的なメリットが複合的に作用しているためです。

 

 

1.  精神年齢(MA)の直接算出: 知的障害の程度を直感的に把握しやすく、長年の判定基準との整合性が高い

 

2.  測定可能年齢の広さ: 2歳という低い年齢から測定でき、早期の判定ニーズに対応可能

 

3.  過去データとの継続性: 長期的な縦断的評価を可能にし、行政手続きの安定性を確保

 

4.  運用の効率性: 検査の実施にかかる時間や手続きが比較的シンプルであり、相談所の業務効率に適している

 

 

田中ビネーVは、「知的障害の有無と程度」という公的な判定に必要な「物差し」として、その役割を果たしています。しかし、子どもの「個性ある学びの道筋」を照らすためには、WISC-Vのような、より詳細な認知機能の構造を分析できる検査との統合的な活用が、現代の専門職には求められています。

 

 

 

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発達障害ラボ

車 重徳

 

 

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