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408【WISC-Ⅴ】ウィスク5検査とKABC-Ⅱの違い

 

WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査の専門家として、子どもの認知機能評価において最も頻繁に用いられる主要な知能検査であるWISC-V(ウェクスラー式児童用知能検査 第5版)KABC-II(カウフマン式アセスメント・バッテリー 第2版)の比較について詳しく解説いたします。

 

 

この二つの検査は、「子どもの知的な強みと弱みを理解し、支援に繋げる」という目的は共通していますが、その理論的背景、測定する認知モデル、指標構成、そして臨床的な活用法において、重要な違いがあります。

 

 

 

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WISC-VとKABC-IIの共通点

 

両検査は、知能検査として以下の基本的な共通点を持ちます。

 

 

1. 測定の目的と対象年齢の類似性

 

 

 

共通点 WISC-V KABC-II
 主な目的 子どもの認知機能の構造を理解し、学習や適応の課題を把握する  子どもの認知処理のスタイルと能力を理解し、学習支援に役立てる
対象年齢 5歳0ヶ月〜16歳11ヶ月 2歳0ヶ月〜18歳11ヶ月
測定様式 個別式検査(一対一で実施) 個別式検査
結果の形式 標準化された得点(平均100、標準偏差15)で提供される 標準化された得点(平均100、標準偏差15)で提供される

 

 

2. 科学的根拠と標準化

 

両検査とも、大規模な標準化サンプルに基づいて作成されており、高い信頼性(測定の一貫性・安定性)と妥当性(測定したいものを正確に測っているか)が担保されています。これにより、子どもの得点を同年代の子どもと比較し、その認知特性を客観的に評価することが可能です。

 

 

3. 共通して評価される主要な認知機能

 

検査の理論的枠組みは異なりますが、結果として評価対象となる認知機能には重なる部分があります。

 

 

言語能力:語彙力、知識、言葉による推論能力

 

視覚認知・空間能力:視覚的な情報を取り込み、空間的な関係を理解し、操作する能力

 

ワーキングメモリ:情報を一時的に心の中で保持・操作する能力

 

 

 

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WISC-VとKABC-IIの相違点

 

決定的な違いは、「知能をどう捉えるか」という理論的背景と、それに基づく「検査の構成」にあります。

 

 

 

1. 理論的背景と認知モデルの違い

 

 

比較項目 WISC-V (Wechsler Intelligence Scale for Children - Fifth Edition) KABC-II (Kaufman Assessment Battery for Children - Second Edition)
基礎理論  CHC理論 (Cattell-Horn-Carroll Theory) の影響が強い CHC理論 および Luria理論(ルリア理論)の二重理論的枠組み
知能の捉え方 広範な認知能力の階層構造**として知能を捉える。因子分析によって実証された5つの主要因子(指標)で構成 認知処理の様式(プロセス)と知識**という異なる側面から知能を捉える。柔軟な理論的枠組みを持つ
主な焦点 知識の量と言語的な推論能力を含めた、「知的能力の高さと構造」 知識の影響を少なくした「認知処理の過程とスタイル」

 

【解説:理論的背景の違い】

 

1.  WISC-V(CHC理論の影響):

 WISC-V検査は、現代の知能研究の主流であるCHC理論に基づいています。この理論は、知能を階層的に捉え、最上位に一般的な知能、その下に広範な能力(流動性推理、結晶性知能など)、最下層に個別の狭い能力を位置づけます。WISC-Vの5つの主要指標は、この広範な能力にほぼ対応しています。

 

 

2.  KABC-II(ルリア理論とCHC理論の二重枠組み):

    KABC-IIの最大の特徴は、二つの異なる理論的枠組みに基づいて解釈できる点です。

 

ルリアモデル:

 ソビエトの神経心理学者ルリアの理論に基づき、知能を継次処理(順序立てて処理する能力)同時処理(情報を全体として一気に処理する能力)という、異なる処理スタイルとして捉えます。これは、特に言語的な説明を介さずに認知処理のスタイルを評価することに焦点を当てています。

 

CHCモデル:

 WISC-V検査と同様に、結晶性知能、流動性知能、短期記憶、視覚処理などを指標として用いることができます。

 

 

この柔軟性により、KABC-IIは、言語性のハンディキャップがある子どもに対して、言語能力に依存しないルリアモデルでの評価を優先できるという大きな利点を持っています。

 

 

2. 検査構成と主要指標の違い

 

WISC-V検査の指標は5つ、KABC-IIの指標は、選択する理論的モデルによって4つまたは5つとなります。

 

検査 主要指標(合成得点) 測定される主要な認知機能
 WISC-Ⅴ検査  VCI(言語理解指標) ことばの概念理解、限度的推論、知識
VSI(視空間指標) 視覚的な情報処理、空間操作、図形処理
FRI(流動性推理指標) 抽象的な規則の発見、新しい問題の論理的解決
WMI(ワーキングメモリ指標) 情報の一時的保持と操作、注意の集中
PSI(処理速度指標) 単純な視覚情報の迅速な処理、精神運動速度

KABC-Ⅱ

(ルリア)

継次処理 情報の順序的処理、短期記憶、音韻処理
同時処理 複雑な視空間情報の統合処理、全体像の把握
計画 目標達成のための戦略の立案・実行
知識 獲得された事実的知識と語彙力

KABC-Ⅱ

(CHC)

結晶性 言語知識、語彙力、一般知識(WISC-ⅤのVCIに類似)
流動性 抽象的な推論、新しい問題解決(WISC-ⅤのFRIに類似)
短期記憶 情報の保持、注意(WISC-ⅤのWMIに類似)
視覚処理 視覚的な分析・操作(WISC-ⅤのVSIに類似)
処理速度 視覚的な情報の迅速な処理(WISC-ⅤのPSIに類似)

 

【解説:指標の焦点の違い】

 

WISC-V検査の「言語理解指標(VCI)」:

 WISC-V検査のVCIは、知能検査において最も伝統的で中核的な指標であり、質問への応答を通じて、言語的な概念理解の深さや知識の豊富さを強く測定します。

 

 

KABC-IIの「継次処理・同時処理」:

 KABC-IIは、知識を測る「知識」指標を、認知処理の指標(継次・同時)から分離している点が大きな特徴です。これにより、学習経験や文化的な影響を比較的受けにくい、「生の情報処理能力」を純粋に捉えることを目指しています。

 

 

 

3. 言語と非言語の分離の程度

比較項目 WISC-Ⅴ KABC-Ⅱ
 言語の関与  言語的な理解が必須な下位検査(VCI、WMIの一部)が多く、FSIQにも言語能力が強く反映される 非言語的な下位検査が豊富に用意されており、「非言語性指標」やルリアモデル(継次・同時)は、指示理解や応答に際して言語能力の関与を最小限に抑えることができる
非言語性IQ WISC-Vにも非言語性合成得点はあるが、KABC-IIの方がより純粋に非言語処理を測定できる 「非言語性指標」があり、言語能力に極端な遅れがある子どもに対して、知的能力の真の姿を評価するのに優れている

 

4. 臨床的な活用場面の違い

比較項目 WISC-Ⅴの主な強みと活用 KABC-Ⅱの主な強みと活用
知能の定義   伝統的な知能の定義に基づき、「知的能力の高さ」という社会的に広く認識されている指標を提供 情報処理の「スタイル」に焦点を当て、ルリア理論に基づく教育的な介入に直結しやすい
SLD/LD SLD(限局性学習症)の診断において、知的能力と学力の乖離を評価する標準的なツールとして用いられる 処理スタイル(継次/同時)の違いが、読み書きや算数の具体的な困難とどのように関連しているかを詳細に分析できる
発達障害 ASDの言語特性(VCIと他の指標の乖離)や、ADHDのワーキングメモリ・処理速度の困難を捉えるのに優れている 重度の言語障害、聴覚障害、海外ルーツなど、言語能力が大きく損なわれている子どもの「真の認知能力」を評価するのに非常に有効
教示と応答 口頭指示、口頭応答が多い 動作性/視覚的な指示と応答が多い検査を多く含む

 

【解説:臨床的優位性の違い】

 

1.  WISC-Vの優位性:

 臨床現場や教育現場、特にSLD(学習障害)の評価において、WISC-Vは「標準」として広く受け入れられています。5つの明確な指標は、学校教育でのVCI(言葉の理解)やWMI(授業への集中)といった具体的な学業スキルとの関連が強く、結果を教育者に伝えやすいという実用性があります。

 

 

2.  KABC-IIの優位性:

 KABC-IIは、「言語に依存しない真の能力」を評価したい場合に非常に強力です。

   

 例えば、極端な緘黙(かんもく)や、発達性言語障害により言葉を十分に理解・発話できない子どもに対して、WISC-V検査でFSIQを算出すると、言語性の低さから能力を過小評価してしまうリスクがあります。

 

 KABC-IIでは、非言語性指標やルリアモデルの継次・同時処理指標を用いることで、「言葉は使えないが、頭の中の情報処理能力は高い」という実態を正確に把握し、学習方法を口頭ではなく視覚優位に変えるなどの具体的な介入戦略を立てやすくなります。

 

 

 

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総合的な結論と使い分け

 

WISC-V検査とKABC-IIは、同じ知能検査というカテゴリーに属しながらも、その哲学と提供する情報が異なります。ベテランの専門家としては、以下の使い分けが基本となります。

 

 

1.  WISC-V検査:

 

 標準的な知的能力の構造を、CHC理論に基づき詳しく把握したい場合

   

 言語的な能力と他の認知能力との乖離を詳細に分析したい場合(ASDやSLDの補助診断)

 

 結果を、**学校や他の専門機関**と共有する際、最も共通理解を得やすい指標(VCI, WMI, PSI)が必要な場合

 

 

2.  KABC-II:

 

言語能力が極端に低く、WISC-Vでは能力を過小評価してしまうリスクがある場合

 

認知処理の「スタイル」(継次 vs. 同時)を分析し、読み書きや計算といった基礎学習がどの情報処理の困難に起因しているのかを深く探りたい場合

 

文化的な背景により、WISC-Vのような知識に依存する検査で不利になる可能性がある子どもを評価する場合

 

 

臨床の現場では、二つの検査の結果を比較検討することで、一方の検査では見えなかった「知的な風景」が見えてくることも少なくありません。どちらの検査も、子どもの困難の背景にある「見えない認知の特性」を理解するための極めて重要なツールであり、それぞれの長所を活かしたアセスメントが求められます。

 

 

 

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発達障害ラボ

車 重徳

 

 

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