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412【発達障害】発達に課題がある子どもに「三つ山検査」を実施したらどういう結果になるのか

 

「三つ山検査」(Three-Mountains Task)は、スイスの心理学者ジャン・ピアジェが提唱した自己中心性を測定するための古典的な検査です。

 

発達に課題のあるお子さんへの適用は、その子どもの視点取得能力空間認知の発達段階を理解する上で非常に重要です。

 

 

私はベテランの臨床家として、この検査が実際にはどのように見え、そこからどのような臨床的な見解が得られるのかを、詳しくご説明します。

 

 

 

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1. 「三つ山検査」の概要と実施の実際

 

1-1. 検査の目的

 

三つ山検査の主要な目的は、子どもの自己中心性の程度を評価することです。

 

自己中心性とは、他者の視点や感情、思考が、自分のものとは異なる可能性があることを理解できない認知的な状態を指します。

 

 

ピアジェは、子どもが前操作期(約2歳から7歳)にある間は自己中心性が強く、具体的操作期(約7歳から11歳)に進むにつれて徐々に脱中心化が進むと考えました。

 

発達に課題がある子ども、特に自閉スペクトラム症(ASD)など、心の理論(Theory of Mind: ToM)の発達に遅れや特異性が見られるお子さんの場合、この検査は他者の視点を理解する認知能力、つまり視点取得能力(Perspective-Taking)の客観的な指標の一つとなり得ます。

 

 

 

1-2. 検査の構成要素

 

この検査は、三つの異なる大きさ、色、高さを持つ山の模型と、人形(または観察者を示す物体)を用いて行われます。

 

1.  三つの山:

 

     山A: 小さくて低い山(例:緑色)

     山B: 中くらいの山(例:茶色で頂上に雪がある)

     山C: 大きくて高い山(例:灰色で頂上に十字架がある)

   

 

 これらをテーブルの上に配置し、子どもからはどの山がどのように見えるか、そして人形からはどのように見えるかを確認します。

 

 

2.  人形(他者の視点):

   

  人形は、子どもの座る位置とは異なる、山の周りの別の位置に置かれます。

 

 

3.  反応の選択肢:

 

     子どもが人形の視点を表現するために、山の模型の写真を何枚か見せ、「この人形が見ている景色はどれですか?」と選ばせます。

 

 あるいは、山の模型を回転させて、「人形から見えるのと同じ景色を、この模型で再現してごらん」と指示することもあります。

 

 

 

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2. 発達に課題のある子どもへの実施の様相

 

発達に課題のある子どもに三つ山検査を実施する際、定型発達の子どもとは異なる反応パターンや、検査遂行上の特徴が見られることがしばしばあります。

 

 

 

2-1. 視点取得の困難さ(自己中心的な回答)

 

実際の様子:

 

 最も典型的なパターンは、人形の視点を選択する際、子ども自身の座っている場所から見える景色を表す写真を一貫して選ぶことです。

 

要素 子どもの視点(実際) 人形の視点(求められる回答) 子どもの回答(自己中心性)
 位置関係  C ▶ B ▶ A の順に見える B ▶ A ▶ C の順に見える(人形は反対側) C ▶ B ▶ A の写真を選択
隠れる山 AやBがCに隠される CがAやBに隠される 自分から隠れて見えるものをそのまま回答

 

2-2. 空間認知・注意の課題による混乱

 

実際の様子:

 

視点取得の能力以前に、山々の位置関係そのものを正確に把握することに困難を示す場合があります。

 

 

注意の偏り:

 特定の刺激(例:十字架のついた山C)に注意が集中しすぎて、他の山との相対的な位置関係を無視してしまう。

 

 

ワーキングメモリの負荷:

 「人形の位置」と「山々の配置」を同時に記憶・処理し、さらに「その位置からどう見えるか」を推測する認知的な負荷に耐えられない。指示をすぐに忘れたり、「さっきと同じでいい?」と尋ねたりすることがあります。

 

 

図形処理の困難:

 写真と模型の対応付け(マッチング)が困難な場合があります。

 

 

 

2-3. 言語理解・表現の課題

 

実際の様子:

 

 「人形からはどう見えるか」という質問の抽象的な意味を理解することが難しい場合があります。

 

 

具体的な指示の要求:

 「どう見える?」という問いに対して、「山がそこにある」など、**視覚的な結果**ではなく**存在**を答える。

 

 

視覚と言語の分離困難:

 自分の見えているものを言葉で説明することはできても、それを別の場所にある人形の視覚情報に変換することが困難。

 

 

 

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3. 臨床的な見解と解釈

 

三つ山検査の結果から得られる臨床的な見解は多岐にわたりますが、発達に課題のあるお子さんの場合、特に以下の点に焦点を当てて解釈します。

 

 

 

3-1. 心の理論(ToM)の発達評価

 

三つ山検査で一貫して自己中心的な回答が見られた場合、それは視覚的な視点取得(Visual Perspective-Taking)の困難、すなわち一次的視点取得の課題を示唆します。

 

 

 

臨床的な意味合い:

 他者の視覚情報が自分と異なることを理解できないことは、心の理論の発達における初期段階の遅れや特異性を示します。これは、ASDのお子さんに頻繁に見られる所見です。

 

 

見解:

 他者の意図、信念、感情など、より複雑な二次的視点取得(他者の心の状態の理解)も困難である可能性が高く、社会性の発達に大きな課題を抱えていると考えられます。

 

 

 

3-2. 空間認知・視覚−空間機能の評価

 

視点取得の失敗が、単なる自己中心性ではなく、**空間認知や視覚−空間機能**の基礎的な能力の欠如に起因している可能性も考慮します。

 

 

臨床的な意味合い:

 お子さんが非言語性学習障害(NLD)や特定の発達性協調運動障害の要素を持っている場合、空間的な回転や関係性の操作を要求されるこの検査で苦戦します。

 

 

見解:

 この場合、検査結果はToMの課題だけでなく、認知機能のプロファイル(得意な領域と苦手な領域)の一部として解釈されます。地図を読む、ブロックを組み立てる、図形を模写するといった他の課題でも困難が見られるかを確認することが重要です。

 

 

 

3-3. 実行機能との関連

 

この検査は、単なる視点取得だけでなく、複数の情報を操作する実行機能を要求します。

 

 

抑制(Inhibition):

 自分の視点という優位な反応を抑制し、他者の視点という劣位な反応を選択する必要があります。ADHDなど、注意欠如多動症の特性を持つ子どもは、この抑制が困難なために、反射的に自分の視点を選んでしまうことがあります。

 

 

ワーキングメモリ(Working Memory):

 人形の位置、山々の配置、そしてその二つを統合した「人形から見た景色」のイメージを短時間保持し、写真と比較する必要があります。

 

 

見解:

 自己中心的な回答が実行機能の困難に強く関連している場合、それは認知的柔軟性(Cognitive Flexibility)の課題も示唆し、問題解決能力や計画性に影響を及ぼしている可能性があります。

 

 

 

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4. 臨床的介入への応用

 

三つ山検査の結果は、そのまま診断名に直結するわけではありませんが、支援プログラムの設計に極めて有用な情報を提供します。

 

 

 

4-1. 療育アプローチの焦点化

 

もし自己中心性が強いと判断された場合、**視点取得訓練**に焦点を当てた療育を開始します。

 

 

初期段階:

 物体レベルでの視点取得(例: 「この箱をあなたから見ると四角だけど、私から見ると三角に見えるよ」)。

 

 

応用段階:

 人物レベルでの視点取得(例: 「私が椅子に座ると、あなたは私のかばんが見えないね。でも、私が立ち上がると見えるよ」)。

 

 

より複雑な段階:

 心の視点取得(例: 社会的物語やコミック会話を用いて、登場人物が「何を知っているか」「何を考えているか」を推測する訓練)。

 

 

 

4-2. 環境調整と配慮

 

視覚−空間機能の課題が大きい場合は、日常生活での配慮を提案します。

 

 

 

視覚支援の強化:

 指示や情報を伝える際に、**言葉だけでなく、図や写真、実物**を用いて、空間的な関係性を明確にします。

 

 

環境の構造化:

 物の配置や行動の順序を一貫させ、空間的な予測可能性を高めます。

 

 

 

4-3. 保護者へのフィードバック

 

保護者に対しては、お子さんの「見えないもの」や「理解できないこと」「悪意」や「わがまま」ではないことを丁寧に説明します。

 

 

「あの子はいつも自分勝手」と感じられる行動は、「他者の視点を認知的に理解できない」という発達的な課題に根ざしている可能性が高いことを伝えます。

 

 

お子さんの認知的な特性に基づいた、具体的なコミュニケーションのヒント(例:「あなたから」ではなく、「人形さんから」と主語を明確にする)を提供します。

 

 

 

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5. まとめ

 

三つ山検査は、前操作期の子どもの自己中心性を評価する古典的な尺度ですが、発達に課題のある子どもにおいては、その結果の解釈が非常に重要になります。

 

 

 

 

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発達障害ラボ

車 重徳

 

 

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