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400【WISC-Ⅴ】特別支援の先生必見!WISC-Ⅴ結果の見方と活用ポイント

特別支援の先生必見!WISC-Ⅴ結果の見方と活用ポイント

 

 

特別支援教育の現場で日々奮闘されている先生方、そして療育の最前線で子どもたちの成長を支えるスタッフの皆さま、いつもありがとうございます!

 

 

WISC-Ⅴ(ウェクスラー児童用知能検査 第5版)は、子どもたちの認知特性(得意なこと・苦手なこと)を客観的に把握するための、強力かつ不可欠なツールです。しかし、検査結果の報告書に並ぶ複雑な数値や指標を前に、

 

「結局、この子はどんな支援が必要なの?」

「数値の**『凸凹』**を、どう具体的な指導に落とし込めばいいんだろう?」

 

と悩まれた経験は、少なくないでしょう。

 

 

この記事では、発達障害の専門家として、WISC-Ⅴの結果を「子どもの取扱説明書」として最大限に活かすための読み解き方と、現場ですぐに実践できる具体的な活用ポイントを、徹底的に解説します。

 

 

 

 

1. WISC-Ⅴ検査の基本理解:なぜ特別支援に不可欠なのか?

 

WISC-Ⅴ検査は、単に「頭の良さ」を測る検査ではありません。子どもが「どのように世界を理解し、考え、問題を解決するか」という認知機能の詳細なプロフィールを明らかにする検査です。

 

 

1-1. WISC-Ⅴ検査でわかる「3つのこと」

 

WISC-Ⅴの結果から読み取れる最も重要な情報は以下の3つです。

 

 

1)認知機能の全体的な水準(全検査IQ): 子どもの知的能力全体の平均的な位置を示します。

 

2)認知機能の偏り(指標得点の「凸凹」): 5つの主要な認知領域における得意・不得意のバランスを示します。特別支援の指導では、この「凸凹」の把握が最も重要です。

 

3)特定の課題処理能力(下位検査得点・プロセス得点): 各領域を構成する具体的なスキル(例:語彙力、図形を捉える力、注意の持続力など)の水準を示します。

 

 

特に、発達障害のある子どもたちの多くは、全検査IQが平均範囲内であっても、指標間で大きな差(凸凹)が見られることが特徴です。この凸凹こそが、学習や生活における「困り感」の根源となっていることが多々あります。

 

 

1-2. WISC-Ⅳとの主な変更点(知っておくべきポイント)

 

WISC-Ⅴでは、これまでのWISC-Ⅳから一部の検査構造が変更され、より子どもの認知特性を多角的に捉えられるようになりました。

 

指標名 WISC-Ⅳ(変更前) WISC-Ⅴ(変更後) 特別支援での着目点

G 処理速度 (PSI) 処理速度 (PSI) 課題を正確に、スピーディーにこなす力。宿題や板書、テストの時間配慮の根拠となる。

W ワーキングメモリー (WMI) ワーキングメモリー (WMI) 一時的に情報を保持し、操作する力。指示の理解・復唱、応用問題の苦手さに関わる。

V 知覚統合 (PRI) 視空間 (VSI) 視覚情報を素早く捉え、図形や空間を理解する力。図形、地図、板書の理解に関わる。

F 知覚統合 (PRI) 流動性推理 (FRI) 新しい情報からルールを見つけ、論理的に考える力。応用力、抽象的思考に関わる。

C 言語理解 (VCI) 言語理解 (VCI) 言葉の意味を理解し、言葉で考える力。語彙力、会話、文章読解の基礎となる。

 

Google スプレッドシートにエクスポート

👉 支援の視点から見ると、**VSI(視空間)とFRI(流動性推理)**が分離されたことで、「視覚的な情報処理の基礎力」と「新しいことを考える応用力」をより明確に区別して支援策を立てられるようになりました。

 

2. 検査結果の読み解き方:凸凹を「支援の地図」に変える

WISC-Ⅴの結果報告書を受け取ったら、以下の3ステップで読み進めてください。数値の羅列ではなく、子どもの「強み(得意)」と「弱み(苦手)」の物語として捉えることが重要です。

 

2-1. ステップ1:全検査IQ(FSIQ)の確認

まず、**全検査IQ(FSIQ)**がどの範囲にあるかを確認します。

 

115以上(平均より高い): 知的能力全般が高い。**「なぜできないんだろう?」**という疑問が生じやすい場合、指標間の凸凹に注目が必要です。

 

85~115(平均~ほぼ平均): 多くの児童生徒はこの範囲。得意な力を生かし、苦手なところを補う戦略的な支援が求められます。

 

70~85(境界域): 全体的な学習・生活での困難さが予想されます。丁寧なスモールステップでの指導と、基礎基本の定着が最優先です。

 

69以下(知的障害の可能性): 個別支援計画(IEP)に基づき、生活スキル、コミュニケーションなど多岐にわたる支援が必要です。

 

2-2. ステップ2:5つの指標得点の比較(最も重要!)

FSIQを確認したら、**5つの主要指標得点(VCI, VSI, FRI, WMI, PSI)**を比較し、**最も高い指標(強み)と最も低い指標(弱み)**を特定します。

 

この**「強み」こそが、困難を抱える「弱み」を補うための「土台」**であり、指導の糸口となります。

 

**平均値(100)**からどれだけ離れているか?

 

指標間の差が標準偏差の1.5倍(22.5点)以上あるか?(大きな凸凹の目安)

 

例えば、**VSI(視空間)**が高く、**WMI(ワーキングメモリー)**が低い場合、その子は「目で見た図や構造の理解は得意だが、口頭の指示を覚えて実行するのが苦手」という特性を持つと読み取れます。

 

2-3. ステップ3:下位検査の解釈と行動観察の統合

特定の指標が低かった場合、その指標を構成する下位検査の結果を見ることで、**「なぜその指標が低いのか」**の理由をより深く探ります。

 

指標の弱み 下位検査の例 読み解き(具体的な困り感)

VCI(言語理解) 知識・類似 語彙の絶対量が少ない、または抽象的な概念や言葉の共通点を理解するのが難しい。

WMI(ワーキングメモリ) 数字の符号化 情報を保持する力は問題ないが、情報を整理・操作することが難しい(複雑な指示を処理できない)。

PSI(処理速度) 符号 課題を素早く正確に処理するのが難しい。「速さ」と「正確さ」のどちらに課題があるかで対応が変わる。

 

Google スプレッドシートにエクスポート

💡 行動観察との統合が鍵:数値だけでは分かりません。検査時の子どもの行動(例:課題中に多動になる、指示を復唱して確認する、途中で集中力が途切れるなど)や、日頃の学校・療育での様子を合わせて考察することで、初めて「生きた支援策」が見えてきます。

 

3. WISC-Ⅴ活用!「凸凹」に応じた具体的な指導・支援策

WISC-Ⅴの結果は、「どの子に、どのような教材や関わり方が最適か」を明確にするための実践ガイドです。特に指標間の凸凹が大きい場合、強みを活かし、弱みをサポートする具体的な戦略が求められます。

 

3-1. 【弱み:言語理解 VCI】への支援策

「言葉での説明が通りにくい」「語彙が少なく、抽象的な概念の理解が難しい」

 

✅ 指導上の配慮:

 

視覚化を徹底: 言葉だけでなく、図・写真・イラスト・具体物を必ず併用して説明する。

 

 

* **言葉の簡素化:** **指示は短く、シンプルに**。複雑な文章や比喩表現は避け、抽象的な概念は具体例を多用して説明します。

* **新しい言葉の定着:** 授業で出てきた新しい語彙は、**専用のノート**に書き出し、意味と具体的な使用例を併記させて定期的に復習します。

💡 強み(例:VSIが高い)を活かす: 視空間の強みを生かし、概念マップやフローチャートなどの視覚的なツールを使って知識を整理させると、理解が進みやすくなります。

 

3-2. 【弱み:視空間 VSI】への支援策

「図形や地図、板書を空間的に捉えるのが苦手」「書字や描画が苦手」

 

✅ 指導上の配慮:

 

言葉での補足: 図やグラフ、地図を扱う際には、言葉で構造やポイントを丁寧に説明する(例:「この線は東西を表しているよ」)。

 

段階的な指導: 複雑な図形や立体は、部品ごとに分解し、スモールステップで組み立てるように指導します。

 

板書・ノートの工夫: ノートの罫線や枠を活用し、どこに何を書くかを明確に構造化します。教師が用意した穴埋め形式のワークシートを活用し、書き写しの負担を減らします。

 

💡 強み(例:VCIが高い)を活かす: 言葉での説明を重視し、言葉で概念を理解させてから、図や形を関連付けます。口頭で手順を説明させながら作業に取り組ませる**「自己教示法」**も有効です。

 

3-3. 【弱み:流動性推理 FRI】への支援策

「応用問題や初めての問題が解けない」「論理的な思考やルールの発見が難しい」

 

✅ 指導上の配慮:

 

プロセス重視: 答えではなく、「なぜその答えになったか」の思考プロセスを段階的に言葉で教えます。

 

具体例から抽象化へ: まず具体的な事例や操作可能な教材(ブロックなど)を使い、ルールや原理を体験してから、言葉や数式に結びつけるように指導します。

 

問題解決の枠組み: 「問題は何?」「使える情報は?」「手順は?」といった解決のフレームワークを事前に教え、それに基づいて取り組ませる習慣をつけます。

 

💡 強み(例:PSIが高い)を活かす: 処理速度の速さを活かし、パターン認識や定型的な計算を繰り返す練習で成功体験を積み重ね、自信をつけさせます。

 

3-4. 【弱み:ワーキングメモリー WMI】への支援策

「口頭の指示が覚えられない」「複雑な課題を途中で忘れる」「指示の聞き返しが多い」

 

✅ 指導上の配慮:

 

指示は1つずつ: 複数の指示を一度にせず、1つの指示が終わってから次の指示を出します。

 

復唱の習慣: 重要な指示は必ず子どもに復唱させ、理解度を確認します。

 

外部記憶ツールの活用: メモ、チェックリスト、ICレコーダー、タイマーなどのツールを積極的に活用し、記憶の負担を軽減します。

 

環境調整: 気が散る要素(雑音、視覚的な刺激)を減らし、課題に集中できる環境を整備します。

 

💡 強み(例:VSIが高い)を活かす: 指示を絵や図、文字で視覚化して提示し、視覚的な手がかりで記憶を補います(視覚的なスケジュールなど)。

 

3-5. 【弱み:処理速度 PSI】への支援策

「課題を終えるのに時間がかかる」「板書が間に合わない」「テストの時間が足りない」

 

✅ 指導上の配慮:

 

時間延長・課題量の調整: テストやドリルなどの時間を延長したり、課題の量を減らしたりするなど、「正確さ」を優先し、「速さ」のプレッシャーを軽減します。

 

効率化: 黒板からの書き写しを免除し、教師が用意したプリントやデータを利用させます。定規や補助具を使い、手の負担を減らす工夫も有効です。

 

休憩の導入: 長時間の集中が難しい場合、短時間の休憩を挟んでリフレッシュを促します。

 

💡 強み(例:WMIが高い)を活かす: ワーキングメモリーの強さを活かし、手順を言葉で確認しながら作業を進めることで、間違いを減らし、結果的に効率を高めることができます。

 

4. WISC-Ⅴ結果を個別指導計画(IEP)に活かす連携の極意

WISC-Ⅴの結果は、学校、家庭、療育機関が連携するための共通言語です。この情報を個別指導計画(IEP)や個別支援計画(IPP)に落とし込み、関係者間で共有することで、支援の質は飛躍的に向上します。

 

4-1. 特別支援コーディネーターの役割:情報を「翻訳」する

特別支援コーディネーターは、心理士や医師から提供されたWISC-Ⅴの専門的な情報を、学校の先生や保護者にわかりやすい「教育用語」や「具体的な関わり方」に翻訳する重要な役割を担います。

 

「VSIが高いから図が得意」→「図形や地図はスッと理解できるが、抽象的な話は苦手なので、授業では図と具体例をセットで提示しましょう。」

 

「WMIが低いから指示を忘れやすい」→「板書をするときは、3つ以上のことを同時に指示せず、チェックリストを使って終わったタスクに印をつけさせましょう。」

 

このように、数値と具体的な教室での行動を結びつけることで、先生方の負担も減り、支援の実行性が高まります。

 

4-2. 療育スタッフの役割:**「強み」**を「成功体験」へ

放課後等デイサービスや児童発達支援の療育スタッフは、WISC-Ⅴで見えた強みを活かし、成功体験を積み重ねる場を提供することが重要です。

 

PSI(処理速度)が高い子: タイマーを使って時間内に簡単な作業を終えるチャレンジを設け、達成感を得る。

 

VSI(視空間)が高い子: ブロックやパズル、DIYなどの視覚・操作が得意な活動をカリキュラムに取り入れ、自己肯定感を高める。

 

WCI(言語理解)が高い子: ディベートや感想文の発表、物語の読み聞かせなどを通して、言語的な表現力を伸ばす。

 

療育の場での「得意」を、学校生活で「困り感」のある場面を乗り越えるための**「精神的なエネルギー源」**へとつなげていくことが大切です。

 

5. まとめ:WISC-Ⅴを最大限に活かす3つの心得

WISC-Ⅴは、発達障害のある子どもたちの**認知特性という「個性」**を理解するための最良のツールです。報告書をファイルにしまわず、日々の支援に活かすために、以下の3つの心得を大切にしてください。

 

「凸凹」こそが「取扱説明書」と心得る: 全検査IQではなく、**指標間のばらつき(凸凹)**にこそ、支援のヒントが詰まっています。

 

強みを「支援の土台」にする: 苦手なことの克服だけでなく、得意な力を最大限に利用して苦手なことを補う戦略を立てましょう。

 

連携と共有を共通言語で: WISC-Ⅴの結果を共通言語として、学校、療育、家庭間で具体的な支援策を共有し、一貫した関わりを提供しましょう。

 

子どもたちが抱える学習・生活上の困難は、「努力不足」ではなく「認知特性」に起因することがほとんどです。WISC-Ⅴの結果を深く読み解き、一人ひとりの特性に合った個別最適な支援を実践していくことで、すべての子どもたちが自信を持って学校生活や社会生活を送れるよう、私たち専門家も全力でサポートしていきます。