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402【WISC-Ⅴ】事例で学ぶ!WISC-Ⅴ検査のプロフィール解釈の基本

 

事例で学ぶ!WISC-Ⅴ検査のプロフィール解釈の基本

 

特別支援教育や療育の現場で、日々子どもたちの成長を支えていらっしゃる先生方、スタッフの皆さま、心から敬意を表します。

 

 

WISC-Ⅴ(ウェクスラー児童用知能検査 第5版)は、発達障害や学習上の困難を抱える子どもたちの「得意なこと(強み)」と「苦手なこと(弱み)」、すなわち認知特性のプロフィールを、客観的に把握するための最も重要なツールです。しかし、検査結果報告書に記載された複雑な数値や指標を前に、「この子の実態をどう読み取り、どう支援に活かせばいいのか」と悩まれることは少なくないでしょう。

 

 

この記事では、WISC-Ⅴ検査のプロフィール解釈の基本ステップを、具体的な事例を交えながら専門的に解説します。単なる数値を知識として知るだけでなく、「生きた子どもの姿」と結びつけ、個別最適な支援(合理的配慮やIEP)へと落とし込むための実践的な視点とノウハウを提供します。

 

 

 

1. プロフィール解釈の基本:なぜ「凸凹」に注目するのか

 

WISC-Ⅴの解釈で最も重要なのは、全検査IQ(FSIQ)という単一の数値ではなく、五つの主要な指標間に見られる得点のばらつき(凸凹)です。発達障害のある子どもの多くは、全検査IQが平均範囲内であっても、この指標間で大きな差(得点差)が見られます。この認知機能のアンバランスこそが、子どもたちが直面している学習や生活上の「困り感」の根本原因であるからです。

 

 

解釈の基本は、以下の三つのステップで進めます。

 

 

1.  全体水準の把握(FSIQ): 知的能力全体のおおよその位置を確認します。

 

2.  指標間のばらつきの分析: 五つの主要指標(VCI, VSI, FRI, WMI, PSI)の中で、特に際立って高い強みと、著しく低い弱みを特定します。

 

3.  下位検査の分析と行動観察の統合: 弱みが見られた指標について、構成する下位検査の成績や、検査時の子どもの行動特性を考慮に入れ、具体的な困難の要因を深く掘り下げます。

 

 

このプロセスを通して、「この子は目で見た情報は得意だが、耳で聞いた情報を覚えておくのが苦手だ」といった、具体的な学習スタイルを把握し、支援の方針を定めます。

 

 

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2. 弱みを示す五つの指標と指導への示唆

 

五つの主要指標の得点が平均より著しく低い場合、それは特定の認知プロセスが苦手であることを示唆しています。それぞれの「弱み」が、どのような指導上の配慮を必要とするかを確認します。

 

 

 

2-1. 【VCI 言語理解指標が低い】場合の指導示唆

 

VCIの低さは、言葉の意味を正確に理解する力や、抽象的な概念を言葉で考える力に苦手さがあることを示します。授業中では、口頭での説明や指示、文章読解などでつまずきが見られやすくなります。

 

 

指導への示唆: 指示や説明は言葉を極力簡素化し、抽象的な表現や比喩を避けます。理解を促すためには、必ず図、写真、具体物、文字などの視覚情報を併用するマルチメディア的な提示が不可欠です。新しい語彙や概念は、専用のノートに具体例と共に記録させ、定期的な復習を取り入れます。

 

 

 

2-2. 【VSI 視空間指標が低い】場合の指導示唆

 

VSIの低さは、視覚情報を統合し、図形や空間的な関係を把握する力に苦手さがあることを示します。板書の構造を捉える、図形問題や地図を理解する、マス目の中に字を正確に書くといった活動で困難が生じやすくなります。

 

 

指導への示唆: 図やグラフを扱う際は、言葉で構造やポイントを丁寧に説明する「言語によるナビゲーション」を徹底します。複雑な板書や図は、教師が事前に用意した枠組みを利用させたり、書く量を減らす配慮(合理的配慮)が必要です。特に算数や理科では、立体模型や操作可能な教材を積極的に活用し、操作を通じて空間認識**をサポートします。

 

 

 

2-3. 【FRI 流動性推理指標が低い】場合の指導示唆

 

FRIの低さは、新しいルールや法則を見つけ出す力、論理的に推論する力に苦手さがあることを示します。応用問題、初見の問題、抽象的な思考を要する課題で困難が生じやすく、特に高学年以降の抽象化が進む学習内容で顕著になります。

 

 

指導への示唆: 問題解決の過程を「まず何をするか」「次にどうするか」と、段階的に言語化・視覚化した思考のフレームワークを提供します。抽象的な概念は、まず具体的な事例や操作を通じて体験させ、その後にルールを言語化する流れを重視します。答えの正誤だけでなく、思考プロセス(手順)を評価し、論理的な誤りを修正する指導を取り入れます。

 

 

 

2-4. 【WMI ワーキングメモリー指標が低い】場合の指導示唆

 

WMIの低さは、情報を一時的に保持し、操作する力に苦手さがあることを示します。口頭での複雑な指示を覚えて実行する、計算の途中の数字を記憶しておく、複雑な文章を読み解く際の情報整理などでつまずきが見られやすくなります。

 

 

指導への示唆: 指示は必ず「一つずつ」出し、重要な指示は子どもに復唱させて確認を徹底します。記憶の負担を軽減するため、メモ、チェックリスト、ICレコーダーなどの外部記憶ツールの利用を積極的に指導し、習慣化させます。複雑な課題は、小分けにして休憩を挟みながら、集中力を維持できる環境を整えます。

 

 

 

2-5. 【PSI 処理速度指標が低い】場合の指導示唆

 

PSIの低さは、視覚情報を素早く正確に処理する力に苦手さがあることを示します。テストやドリルを時間内に終える、板書を正確に速く書き写す、複数の作業を同時に行うといった活動で困難が生じます。

 

 

指導への示唆: テストや課題においては、時間延長や課題量の調整といった合理的配慮を導入します。正確さを優先し、「速さ」のプレッシャーを軽減します。板書や書き写しは、教師が用意したプリントやICT機器(タブレット、PC)を利用させ、書字の負担を軽減します。定型的な作業を効率化するためのルーティン化を指導します。

 

 

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3. 事例によるプロフィール解釈と支援への応用

 

ここでは、WISC-Ⅴ検査の結果に頻繁に見られる二つの代表的なプロフィールパターンを事例として紹介し、その解釈と具体的な支援への応用を解説します。

 

 

 

3-1. 事例1:言語優位型(VCI・FRI高、WMI・PSI低)

 

ある児童のプロフィールが、VCI(言語理解指標)とFRI(流動性推理指標)が非常に高く、一方でWMI(ワーキングメモリ指標)とPSI(処理速度指標)が著しく低いという結果であったとします。FSIQは平均の範囲内でした。

 

 

3-1-1. プロフィールの解釈

 

この児童は、言葉による思考力や概念理解力、そして論理的な推論能力といった「考える力」は非常に優れています。しかし、「情報を一時的に保持し操作する力」や、「情報を素早く処理し、形にする力」が極端に苦手です。

 

 

具体的な困り感: 授業内容(概念)はよく理解できるのに、先生の複数の口頭指示**を覚えられない、宿題やテストに時間がかかりすぎる、板書が間に合わないといった形で困り感が出やすくなります。「頭がいいのに、どうしてこんな簡単なこともできないんだろう」と誤解されがちです。

 

 

 

3-1-2. 授業・指導への応用

 

強みを活かす: 抽象的な概念の理解は得意なので、学習指導ではVCIの強みを生かして、言葉による説明やディスカッションを積極的に行います。

 

弱みを補う(WMI・PSI): 重要な指示は必ずすべて文字やメモで残します。テストや課題では時間延長を原則とします。タブレットやPCでのタイピングなど、処理速度の遅さを代償するツールの使用を推奨します。

 

 

 

3-2. 事例2:視覚優位型(VSI高、VCI・WMI低)

 

別の児童のプロフィールが、VSI(視空間)が非常に高く、一方でVCI(言語理解)とWMI(ワーキングメモリー)が著しく低いという結果であったとします。FSIQは平均の範囲内でした。

 

 

 

3-2-1. プロフィールの解釈

 

この児童は、視覚的な情報や構造、空間的な関係を瞬時に捉え、操作する力に優れています。しかし、「言葉の意味を理解する力」と、「口頭の情報を覚えておく力」が極端に苦手です。

 

 

具体的な困り感: 図やパズルは得意だが、文章問題の読解でつまずく、抽象的な授業内容が理解できない、先生の口頭指示をすぐ忘れてしまう、といった形で困り感が出やすくなります。「見て覚えるのは得意だが、聞いて覚えるのは苦手」なタイプです。

 

 

 

3-2-2. 授業・指導への応用

 

強みを活かす: 情報をインプットする際は、VSIの強みを生かして、図、写真、動画、フローチャートなど、視覚的な教材を最優先で活用します。新しい概念は、まず図解で示し、それから言葉で補足します。

 

 

弱みを補う(VCI・WMI): 口頭での指示は避け、視覚的なスケジュールやチェックリストで一日の見通しを与えます。言葉を文字通りに解釈する傾向があるため、比喩や遠回しな言い方を避け、具体的でシンプルな言葉を使います。

 

 

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4. プロフィール解釈を個別支援計画(IEP)へ繋げる連携の極意

 

WISC-Ⅴ検査の結果は、学校、家庭、療育機関が連携するための共通言語であり、個別指導計画(IEP)や個別支援計画(IPP)の根幹をなす情報です。

 

 

 

4-1. 連携のための「翻訳」作業の重要性

 

特別支援コーディネーターや心理の専門家は、WISC-Ⅴ検査の専門的な用語(例:「流動性推理指標」)を、教員や保護者にわかりやすい「具体的な行動」に翻訳する役割を担います。

 

 

例: 「WMIの低さ」を、「『宿題を出す』『次の授業の用意をする』『明日の持ち物をカバンに入れる』という三つの口頭指示を一度に出すと、最初の二つを忘れてしまう」という具体的な困り感に翻訳し、「指示は必ず一つずつ出し、メモで確認する」という具体的な支援策としてIEPに明記します。

 

 

 

4-2. 合理的配慮と環境デザイン

 

WISC-Ⅴ検査の結果は、合理的配慮を決定するための客観的な根拠となります。例えば、PSI(処理速度)の低さが確認された場合、「テスト時間の延長」という合理的配慮を導入します。

 

 

しかし、真の活用は配慮の決定で終わりません。その特性に合わせた学習環境のデザインこそが重要です。VSI(視空間)が低い子には、教室の座席を黒板全体が見えやすい位置にする、WMI(ワーキングメモリー)が低い子には、気が散る視覚情報が少ない、壁際の席にするなど、環境そのものを認知特性に合わせて最適化する視点が求められます。

 

 

 

4-3. 療育と学校での一貫性の確保

 

放課後等デイサービスや児童発達支援の療育スタッフは、WISC-Ⅴ検査の結果で見えた強みを伸ばし、自己肯定感を育む活動を意図的に組み込みます。そして、学校で導入されている**代償戦略やツールの使用方法(例:メモの取り方、タイマーの使い方)を、療育の場でも練習し、一貫したサポート体制を構築することが、子どもの成長を加速させます。

 

 

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5. まとめ:WISC-Ⅴは子どもを理解し、可能性を広げるための設計図

 

WISC-Ⅴ検査のプロフィール解釈は、発達障害のある子どもたちが「なぜ困っているのか」という疑問に対し、科学的かつ具体的な答えを与えてくれます。単なる知能指数を測る検査ではなく、その子の認知特性という「個性」を深く理解し、得意な力を伸ばし、苦手なところを支えるための「設計図」なのです。

 

 

特別支援学級の先生方、コーディネーター、療育スタッフの皆様が、このWISC-Ⅴ検査の情報を日々の指導に最大限に活かし、すべての子どもたちが自信を持って学習に取り組み、社会生活を送れるよう、私たち専門家も引き続き、現場に役立つ情報提供に努めてまいります。WISC-Ⅴ検査の結果を活用し、子どもたちの無限の可能性を引き出すための個別最適な支援を、共に実践していきましょう。

 

 

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