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407【WISC-Ⅴ】ウィスク5検査では分からないこと

 

WISC-V(ウィスク5)検査は、子どもの認知特性を理解するための強力なツールですが、WISC-Ⅴ検査の専門家として、「WISC-Vで子どもの全てが分かるわけではない」という点は、介入や支援を行う上で最も重要視すべき視点だと考えます。

 

 

WISC-V検査が提供するのは、あくまで「知的な認知機能の一断面」に過ぎません。それ以外の、子どもの生活全体、学業成績、社会的成功、幸福度に深く関わる多くの要素は、この検査では測定されません。

 

 

以下に、WISC-V検査で「何が分からないのか」を詳しく、知的な領域、感情・社会的な領域、行動・適応の領域の3つに分けて解説します。

 

 

 

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1. 検査で直接測定されない「知的な」側面

 

WISC-V検査は「知能」を測る検査ですが、その測定範囲は限られており、現代の知能観が含む多岐にわたる能力やプロセスの一部しか捉えていません。

 

 

1-1. 創造性(Creativity)や独創性

 

WISC-V検査は、既にある知識やルール、論理に基づいて問題を解く能力を測ります。しかし、新しいアイデアを生み出す力、既存の枠組みにとらわれない思考力、芸術的な才能、独創的な発想といった、創造性に関わる能力は直接的に測定されません。

 

 

拡散的思考 vs. 収束的思考:

 

WISC-V検査が測るのは、最適な唯一の答えを見つけ出す収束的思考の能力が主です。一方、創造性の核となる、多様な解決策やアイデアを生成する**拡散的思考**は評価対象外です。

 

 

「平均的なIQ」と「卓越した才能」:

 

FSIQが平均域内であっても、特定の分野で驚異的な創造性や才能を発揮する子どもは多くいます。WISC-V検査の得点プロファイルがフラットであっても、その子が持つ潜在的な創造性が低いと結論づけることはできません。

 

 

 

1-2. 実践的知能(Practical Intelligence)やストリート・スマート

 

WISC-V検査が測るのは、学校教育や学術的な課題に結びつく抽象的・分析的な知能(本質的に「ブック・スマート」)です。これに対し、日常生活で直面する問題を解決する能力や、実社会での機転、経験から学ぶ力といった実践的知能は測定されません。

 

 

文脈への適用力:

 

検査室という人工的な環境で発揮された能力が、家庭や学校、地域社会という複雑で非構造化された現実の文脈の中で、どの程度発揮されるかは分かりません。

 

 

「知っている」と「できる」の乖離:

 

言語理解(VCI)が高く、知識が豊富であっても、それを実際の生活場面で適切に応用する力(例:バスの乗り換え、金銭管理、人間関係のトラブル対処)が低い場合があります。WISC-V検査は、「何を知っているか」をある程度示しますが、「それをどのように使えるか」は示しません。

 

 

 

1-3. 特化した才能や潜在能力

 

WISC-V検査は、個々の子どもが持つ特定の領域における際立った才能を捉えきれない場合があります。

 

 

運動・身体能力:

 優れた運動神経、ダンス、楽器演奏など、身体的な運動知能は測定されません。

 

 

音楽・空間認知の特化:

 音楽の才能や、特定の複雑な空間構造を瞬時に理解する能力など、特定のサクセス・ファクター(成功要因)となる能力が、FSIQ全体に反映されないことがあります。

 

 

習得過程の質:

 現在の知的能力の水準は示しますが、「その能力を今後どれだけ早く、深く伸ばしていけるか」といった、将来の学習スピードや吸収力に関する潜在的な予測力は、得点のみからでは読み取れません。

 

 

 

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2. 検査では測れない「感情的・社会的」な側面

 

知的な認知機能と並んで、子どもの人生の満足度や適応に極めて重要である感情・情緒や社会的スキルは、WISC-V検査の測定範囲外です。

 

 

2-1. 情緒的知能(Emotional Intelligence: EQ)

 

自己の感情を認識し、制御し、他者の感情を理解し、共感する能力**である情緒的知能は、人間関係の構築やストレスへの対処に不可欠です。

 

 

感情の調整能力:

 怒りや不安、失望といったネガティブな感情を、適切に認識し、コントロールする能力は分かりません。IQが高くても、感情調整が苦手で爆発しやすい子どもは、学校や社会で大きな困難に直面します。

 

 

共感性:

 他者の気持ちを推し量り、それに応じて自分の行動を調整する共感力は、社会的適応の根幹ですが、WISC-V検査の指標には含まれていません。特に自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、VCIが高く、論理的な推論能力が高くても、この共感性に困難を抱えることがあります。

 

 

 

2-2. 対人関係のスキルと社会的適応能力

 

集団の中で他者とうまくやっていくためのスキルや、社会的な状況を適切に読み解く能力は、WISC-V検査の指標には含まれていません。

 

 

社会的推論力:

 「その場に合った行動」「暗黙のルール」を理解する能力は、検査の課題とは異なります。高いIQスコアを持つ子どもでも、集団でのルールが理解できず、場違いな言動をとってしまう場合があります。

 

 

集団の中での行動:

 検査は一対一の環境で行われるため、集団の中での振る舞い(協力、交渉、リーダーシップ、フォロワーシップ)は一切分かりません。

 

 

二次障害としての不適応:

 WISC-Vの指標からは、いじめ、ハラスメント、孤立といった対人関係の失敗経験や、それによって生じた不安やトラウマが、子どもの精神状態や行動に与えている影響は分かりません。

 

 

 

2-3. 自己肯定感と自己理解

 

自分自身を肯定的に捉える感覚や、自分の得意・不得意を認識する力**は、学習意欲や精神的な健康に大きく影響しますが、数値化されることはありません。

 

 

内的な状態:

 WISC-V検査の得点は、子どもが自分自身をどのように見ているか、どれだけの自信を持っているかといった内的な心理状態を反映していません。知的な能力が高くても、自己肯定感が低い子どもは、挑戦を避けたり、抑うつ状態に陥ったりすることがあります。

 

 

動機づけと意欲:

 「なぜ学ぶのか」「何に興味があるのか」といった学習や行動の動機づけ(モチベーション)は、WISC-V検査では測れません。たとえ潜在能力が高くても、学習意欲が極端に低い場合、その能力は開花しません。

 

 

 

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3. 検査当日の状況と行動・適応の側面

 

WISC-V検査の結果は、検査当日の限定された状況下でのパフォーマンスであり、子どもの日常的な行動パターンや環境への適応能力全体を反映しているわけではありません。

 

 

3-1. 検査中の「非認知」要因の影響

 

検査結果は、純粋な認知能力だけでなく、検査時の姿勢や態度といった非認知的な要因に大きく影響されますが、この影響度合いを明確に分離することはできません。

 

 

注意の集中と持続性:

 特にADHD傾向を持つ子どもは、ワーキングメモリ(WMI)や処理速度(PSI)の課題で、課題自体の困難さだけでなく、集中力の持続の困難さによって低得点になることがあります。WISC-V検査は、「なぜ低得点なのか」(能力の限界か、注意の問題か、意欲の欠如か)を完全に特定することはできません。

 

 

遂行機能の全容:

 計画を立て、行動を組織化し、目標に向かって行動を維持する遂行機能は、WISC-V検査の複数の指標(WMI, FRIなど)に部分的に関わりますが、その全容や日常場面での機能不全の程度を評価するには、別の行動評価尺度や詳細な行動観察が必要です。

 

 

 

3-2. 環境適応能力と生活スキル

 

知的障害の診断基準に含まれる「適応行動」は、WISC-V検査では測れません。適応行動は、概念的、社会的、実用的な生活スキルを指します。

 

 

セルフケアスキル:

 食事、着替え、清潔保持といった身辺自立のスキルは、IQとは独立して発達することがあります。

 

 

時間管理・組織化:

 宿題や持ち物の管理、時間割に沿った行動など、日常生活の組織化の能力は、WISC-V検査の得点だけでは推測できません。高いIQを持つ子どもでも、この組織化に困難を抱え、学校生活で混乱することがあります。

 

 

 

3-3. 精神医学的診断の全て

 

WISC-V検査は診断を「補助」するものであり、精神疾患や発達障害の全体像を捉えるものではありません。

 

 

診断の網羅性:

 WISC-V検査では、ASDやADHDといった発達障害の中核症状(対人関係の質、反復行動、衝動性・多動性)は直接評価されません。

 

 

気分・不安障害:

 重度の抑うつ、双極性障害、強迫性障害、トラウマ関連障害といった気分や不安の病態は、WISC-V検査の得点に影響を与える(例:集中力低下によるWMI・PSIの低下)ことはあっても、その病態の質や重症度を評価することはできません。これらの情報は、詳細な面接と他の心理検査によって収集する必要があります。

 

 

 

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まとめ:WISC-Vの位置づけと「全体像」への道筋

 

WISC-V(ウィスク5)検査は、子どもの認知機能というパズルのピースの中で、**最も客観的で標準化された、重要なピースの一つを提供してくれます。しかし、その結果を「子どもの全て」と見なすことは、その子の持つ可能性と困難の両方を見落とす大きな過ちにつながります。

 

 

WISC-V検査で分からないこと(非認知能力、情緒的知能、創造性、実生活への適応、精神疾患の全容など)こそが、その子が学校や社会で「生きる力」を構成する大部分です。

 

 

私たち専門家は、WISC-V検査の結果を、以下の情報と統合し、多角的なアセスメントを通じて初めて子どもの「全体像」に迫ることができます。

 

 

1.  臨床面接:

 子ども本人、保護者との詳細な面接を通じて、発達歴、現在の生活状況、情緒的な状態、行動上の問題を聞き取る。

 

 

2.  行動評価尺度:

 ADHDやASDの特性、不安や抑うつのレベルを、保護者や教師からの報告に基づき客観的に測定する(例:Conners 3, CBCL, Vineland-IIなど)。

 

 

3.  直接観察:

 学校や家庭での生活場面、あるいは検査中の非言語的な振る舞い、問題解決へのアプローチ、失敗への耐性などを詳細に記録・分析する。

 

 

WISC-V検査は「認知機能というエンジンの設計図」を示しますが、そのエンジンが「人生という車を、どのような道(環境)で、どのようなドライバー(動機づけ、感情調整)が、どのように運転しているか」までは教えてくれません。真の支援とは、この全体像を深く理解することから始まるのです。

 

 

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発達障害ラボ

車 重徳

 

 

 

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