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③WISC-Ⅴ検査の読み取りが、なぜ「PASS理論」からCHC理論へ移行していったのか
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⑬発達障がい児の学校での困りごとBEST 5とWISC-Ⅴ検査
⑲発達障害を抱える子どもの「平均寿命」が短い理由とその対策法
⑳発達障害があると「精神疾患」になる可能性が高い理由とその対策法
WISC-V(Wechsler Intelligence Scale for Children, Fifth Edition)は、児童の認知能力を測定するための国際的に標準化された検査です。
その結果を読み解くことは、子どもの発達特性や学習スタイル、そして抱えている困難を深く理解するための重要な手がかりとなります。
単にIQの数値を見るだけでなく、その背後にある認知能力のプロファイル、つまり得意なことと苦手なことを立体的に捉えることが、支援を考える上で不可欠です。
ここではWISC-V検査の結果を以下のような多層的な視点から読み解いていきます。
そして、その具体的な方法を、IQ、一次指標、下位検査、そして定性的観察という4つの階層に分けて詳しく説明します。
全検査IQ(Full Scale IQ; FSIQ)は、WISC-V検査で測定される最も包括的な指標であり、子どもの全般的な認知能力を一つの数値で表します。
しかし、この数値だけでその子を理解したと思ってはいけません。IQはあくまで出発点であり、その読み取りには注意が必要です。
130以上 | 非常に高い | 非常に優れた認知能力を持っていると推測される |
120-129 | 高い | 優れた認知能力を持っている |
110-119 | 平均 | 多くの人がこの範囲に収まる |
80-89 | 平均の下 | 平均よりもやや苦手な部分があるかもしれない |
70-79 | 低い | 平均よりも苦手な部分が多く、学習や生活において支援が必要な場合が多い |
69以下 | 非常に低い | 知的障害の可能性も視野に入れる必要がある |
WISC-V(ウィスクファイブ)検査は、年齢とともに知能が向上するという発達の原則に基づいて作られています。
しかし、同じ子どもでも、体調や心理状態によってIQの数値は数ポイント変動することがあります。
この数値は「絶対的な能力」を示すものではなく、「現時点での認知能力のプロファイル」を示すものであると理解することが重要です。
全検査IQ(FSIQ)は、5つの一次指標(言語理解、視空間、流動性推理、ワーキングメモリ、処理速度)の総合点です。
これらの指標間のばらつきが大きい場合、全検査IQは、その子どもの本当の認知プロファイルを正確に反映していない可能性があります。
例えば、言語理解が非常に高い一方で、処理速度が非常に低い場合、平均的な全検査IQになることがあります。
しかし、この子どもは、口頭での指示理解は得意でも、時間内に課題をこなすことは非常に苦手という、アンバランスな特性を持っています。
この場合、全検査IQだけを見て「平均的な能力」と判断してしまうと、その子どもの困難を見過ごしてしまうことになります。
WISC-V(ウィスクファイブ)検査の真価は、この5つの一次指標を読み解くことにあります。
これらはそれぞれ異なる認知能力を測定しており、子どもの得意・不得意の傾向を明らかにします。
各指標の得点(スケールスコア)は、平均が100、標準偏差が15となるように設計されています。
何を見るか:
言語的な概念形成、言語推論、獲得された知識の活用能力、そして言葉を使った思考力や表現力を測定します。
高得点の意味:
言葉による理解力や説明力が高いことを示唆します。抽象的な概念の理解や、言葉で物事を整理する能力に優れている可能性があります。
低得点の意味:
言葉による理解や表現に困難がある可能性を示唆します。語彙力が不足していたり、言葉による指示の理解が難しかったりすることが考えられます。言語発達遅滞や、発達性言語障害の可能性を視野に入れる必要があります。
臨床的示唆:
学校での国語の授業や、口頭での指示理解、社会性における対人コミュニケーションに影響が出やすい指標です。
何を見るか:
視覚的な情報を取り込み、それを分析し、再構成する能力、すなわち空間認知能力や構成能力を測定します。
高得点の意味:
図形や立体を頭の中で操作したり、模倣したりすることが得意であることを示唆します。パズルや組み立て遊び、地図を読むことなどに優れている可能性があります。
低得点の意味:
図形模倣や空間認知に困難があることを示唆します。図形や文字を枠内に書くこと、算数の図形問題、手先を使った作業などに苦手意識があるかもしれません。
臨床的示唆:
算数の図形問題、理科の実験、あるいは絵を描くことや工作など、視覚情報や空間操作が求められる課題で困難が生じやすい指標です。
何を見るか:
新しい問題を解決するために、論理的な思考や推論を駆使する能力を測定します。これは、過去に学んだ知識に依存しない、純粋な思考力を反映します。
高得点の意味:
論理的な思考力や、新しいルールやパターンを見つけ出す能力に優れていることを示唆します。応用問題や、未経験の課題に対する適応力が高い可能性があります。
低得点の意味:
論理的な思考や問題解決に困難があることを示唆します。初めて見るパターンの問題や、既知の知識が適用できない課題でつまずきやすいかもしれません。
臨床的示唆:
算数の文章題や応用問題、理科の思考実験、プログラミング的思考など、論理的なステップを踏んで問題を解決する課題で困難が生じやすい指標です。
何を見るか:
短い時間、頭の中に情報を保持し、それを操作する能力を測定します。これは、複雑な思考や学習に不可欠な能力です。
高得点の意味:
複数の情報を同時に処理したり、複雑な指示を記憶したりすることが得意であることを示唆します。話を聞きながらメモを取ったり、暗算をしたりすることに優れている可能性があります。
低得点の意味:
複数の情報を同時に処理したり、指示を記憶したりすることが難しいことを示唆します。注意の散漫や、忘れっぽいという形で現れることもあります。聴覚過敏や注意欠如多動症(ADHD)の特性を持つ子どもに低値が見られることがあります。
臨床的示唆:
口頭での複数指示、授業中のノート取り、暗算など、情報を一時的に保持して処理する課題で困難が生じやすい指標です。
何を見るか:
視覚情報を迅速かつ正確に処理する能力を測定します。これは、単純な反復作業や、時間制限のある課題をこなす能力を反映します。
高得点の意味:
素早く正確に作業をこなすことが得意であることを示唆します。情報の整理や、単純作業を効率的に行う能力に優れている可能性があります。
低得点の意味:
作業の速度が遅い、あるいは正確性が欠けることを示唆します。丁寧に時間をかけてしまう、あるいは焦ってミスが多くなる傾向が見られることがあります。発達性協調運動障害(DCD)や、発達性読み書き障害(Dyslexia)の特性を持つ子どもに低値が見られることがあります。
臨床的示唆:
板書を書き写す、テストを時間内に解く、あるいは日常生活における身支度など、時間的な制約がある中で作業をこなす課題で困難が生じやすい指標です。
一次指標をさらに深掘りするのが、下位検査(サブテスト)の分析です。各一次指標は、複数の下位検査の得点から構成されており、それぞれの下位検査は特定の認知能力の側面をより詳細に測定します。
下位検査の得点(評価点)は、平均が10、標準偏差が3となるように設計されています。
同じ一次指標内であっても、下位検査の得点に大きな差がある場合、その指標が示す認知能力が均一ではないことを示唆します。
例1:
言語理解指標(VCI)内の「類似」の得点が15(非常に高い)で、「単語」の得点が8(平均より低い)の場合。これは、抽象的な概念を理解する力は優れているが、語彙力そのものに課題がある可能性を示唆します。
例2:
ワーキングメモリ指標(WMI)内の「数唱」の得点が13(高い)で、「絵の記憶」の得点が7(低い)の場合。これは、聴覚的な短期記憶は優れているが、視覚的な短期記憶に困難がある可能性を示唆します。
言語理解指標(VCI):
「類似」(抽象概念の理解)、「単語」(語彙力)、「知識」(一般的な知識)
視空間指標(VSI):
「積木模様」(空間認知、構成力)、「パズル」(空間認知、視覚分析)
流動性推理指標(FRI):
「行列推理」(論理的思考、推論)、「バランス」(非言語的な推論)
ワーキングメモリ指標(WMI):
「数唱」(聴覚的短期記憶)、「絵の記憶」(視覚的短期記憶)
処理速度指標(PSI):
「符号」(視覚運動協応、短期記憶)、「記号探し」(注意の持続、視覚的弁別)
複数の下位検査のパターンから、子どもの認知プロファイルに関する仮説を立てます。
例:
「記号探し」と「符号」の両方が低い場合、視覚的な単純作業を素早くこなすことに全般的な困難がある可能性が高いです。
例:
「知識」が高く、「数唱」も高い場合、学校での学びを記憶し、それを再生する能力が高いことが推測されます。
WISC-V(ウィスクファイブ)検査の結果を読み解く上で、IQや指標の数値と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「定性的観察」です。
これは、検査中の子どもの言動、態度、感情の動きなどを細かく記録し、分析することです。
この観察は、数値だけでは見えない子どもの特性や困難の背景を理解するための重要な情報源となります。
課題に対する姿勢:
やる気があるか、すぐに諦めてしまうか、慎重に取り組むか、衝動的に答えを出すか。
対人関係:
検査者とのやりとりはどうか、指示をどのくらい聞けるか、質問をできるか。
自己認識:
自分の間違いをどう捉えるか、成功体験にどう反応するか。
ワーキングメモリ指標(WMI):
複雑な指示を与えられたとき、途中で「あれ、何だっけ?」とつぶやく、あるいは手が止まってしまうか。
処理速度指標(PSI):
時間制限がある課題で、焦ってミスが増えるか、あるいは丁寧にやりすぎて時間切れになるか。
流動性推理指標(FRI):
論理的な課題で、試行錯誤を繰り返すか、それともすぐに諦めてしまうか。
発言:
「わかんない」「もう無理」などのネガティブな発言があるか。
感情:
フラストレーションを感じたときに、イライラしたり、泣き出したりするか。
体の動き:
貧乏ゆすり、鉛筆をカチカチ鳴らすなどの多動的な動きがあるか。
定性的観察で得られた情報は、数値的な結果と結びつけて解釈することで、より深い理解が可能になります。
例:
「ワーキングメモリ指標が低い」という数値的結果に加えて、「指示を忘れることが多く、途中で『えっと、なんだっけ?』と何度も言っていた」という観察事実がある場合、その子どもの困難がより具体的に見えてきます。
例:
「処理速度指標が低い」という数値に加えて、「時間制限のある課題で、最初は丁寧にやろうとするが、時間が少なくなると焦って雑になり、ミスが増えた」という観察事実がある場合、単に「遅い」のではなく、「時間的プレッシャーに弱い」という特性が明らかになります。
WISC-V(ウィスクファイブ)検査の結果は、IQという一つの数値で終わるものではありません。
ベテランの臨床心理士・公認心理師は、以下のステップを踏んで、多層的に結果を読み解きます。
1. 全検査IQの確認:
まずは全体像を把握する。
2. 5つの一次指標のプロファイル分析:
得意・不得意の傾向を把握する。指標間に有意差があるかどうかの統計的分析も行う。
3. 下位検査のばらつき分析:
各指標の背後にある、より具体的な認知能力の特性を特定する。
4. 定性的観察の統合:
数値だけでは見えない、子どもの行動や感情、学習スタイルを理解する。
5. 総合的なプロファイルの作成:
上記の情報をすべて統合し、その子どもの認知特性を立体的に描く。
この総合的なプロファイルに基づいて、「なぜこの子は、この課題でつまずくのか?」という問いへの答えを探し、具体的な支援策を立案します。
例えば、ワーキングメモリ指標(WMI)が低い子どもには、「口頭での指示は短く、一つずつ出す」「視覚的なサポート(絵カードやメモ)を活用する」といった支援策が考えられます。
また、処理速度指標(PSI)が低い子どもには、「時間制限を設けない」「丁寧に作業する時間を確保する」といった配慮が有効でしょう。
WISC-V(ウィスクファイブ)検査は、単に「診断」を下すためのツールではなく、その子どもが「どんな世界をどのように見ているか」を理解し、より良い発達を促すための「地図」なのです。
この地図を丁寧に読み解くことが、私たち専門家に課された最も重要な役割です。