お申込みの方のみ、動画講座のパスワードをお伝えします。
お支払い後に送られてくるパスワードをご確認ください。
¥15,000
商品価格 / 送料無料
次の地域は送料無料: 日本 全ての地域を表示 詳細を閉じる
《気になるタイトルをクリックしてください》
③WISC-Ⅴ検査の読み取りが、なぜ「PASS理論」からCHC理論へ移行していったのか
~
⑬発達障がい児の学校での困りごとBEST 5とWISC-Ⅴ検査
⑲発達障害を抱える子どもの「平均寿命」が短い理由とその対策法
⑳発達障害があると「精神疾患」になる可能性が高い理由とその対策法
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder, ASD)は、2025年現在、神経発達症の一つとして広く認識されており、社会的コミュニケーション及び社会的相互作用の持続的な障害と、限定された反復的な行動、興味、活動によって特徴づけられる状態です。
従来の「自閉症」という名称から「自閉スペクトラム症」へと概念が発展したことは、この状態の多様性と複雑性をより適切に表現する重要な変化でした。
自閉症の概念は、1943年にレオ・カナーが「早期幼児自閉症」を報告したことに始まります。
その後、1944年にハンス・アスペルガーが類似した特徴を持つ子どもたちについて報告し、これらの研究が現在のASDの理解の基礎となりました。
20世紀後半から21世紀初頭にかけて、自閉症の理解は大きく変化しました。
従来は「自閉性障害」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障害」などと細分化されていましたが、2013年のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の改訂により、これらは「自閉スペクトラム症」として統合されました。
この変更は、症状の重症度が連続体(スペクトラム)を成すという理解に基づいています。
2025年現在、ASDの有病率は世界的に増加傾向にあります。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の最新データによると、アメリカでは約36人に1人がASDと診断されており、これは過去数十年間で大幅な増加を示しています。
日本においても、文部科学省の調査により、通常の学級に在籍する児童生徒のうち約3.6%がASDの可能性があるとされています。
この増加の背景には、診断基準の変更、社会的認知度の向上、診断技術の進歩、早期発見・早期介入の重要性の認識拡大などが挙げられます。
男女比については、従来は男児が女児の約4倍とされていましたが、近年の研究では女児の診断が見逃されやすいことが指摘され、実際の比率はより均等に近い可能性が示唆されています。
2025年現在のASD診断は、主にDSM-5の基準に基づいて行われます。
診断には以下の2つの主要な症状領域があります。
A. 社会的コミュニケーション及び社会的相互作用の持続的な障害
・社会的・情緒的相互性の欠陥
・非言語的コミュニケーション行動の欠陥
・人間関係を発展させ、維持し、理解することの欠陥
B. 限定された反復的な行動、興味、活動のパターン
・常同的または反復的な運動、物の使用、または話し方
・同一性への固執、日常生活の習慣への融通の利かない執着
・異常に強い、または集中した限定的興味
・感覚刺激に対する過敏性または鈍感性
これらの症状は早期発達段階で明らかになり、日常生活に臨床的に意味のある障害を引き起こす必要があります。
DSM-5では、社会的コミュニケーションと限定的反復的行動の両領域について、必要とする支援のレベルに基づいて重症度を3段階で指定します。
レベル3「支援を要する」: 軽度の支援が必要
レベル2「実質的な支援を要する」: 実質的な支援が必要
レベル1「非常に実質的な支援を要する」: 非常に実質的な支援が必要
ASDの原因について、2025年現在の研究では、遺伝的要因が重要な役割を果たすことが明らかになっています。
双生児研究により、ASDの遺伝率は80-90%と非常に高いことが示されています。
しかし、単一の原因遺伝子は存在せず、多数の遺伝子の相互作用による多因子遺伝が主要なメカニズムと考えられています。
現在までに、SHANK3、NRXN1、CHD8、SCN2Aなど、数百の遺伝子がASDとの関連が報告されています。
これらの遺伝子は、シナプス形成、神経伝達、神経発達に関わる機能を持っており、ASDの神経生物学的基盤の理解に貢献しています。
脳画像研究により、ASDでは以下のような神経学的特徴が観察されています。
・脳容積の変化: 幼児期の脳の急速な成長と、その後の成長の鈍化
・接続性の異常: 脳内の長距離接続の減少と、局所的接続の増加
・特定脳領域の構造的・機能的変化: 扁桃体、海馬、小脳、前頭前皮質などの変化
・神経伝達物質系の異常: セロトニン、GABA、グルタメート系の機能異常
遺伝的要因が主要である一方、環境要因も一定の役割を果たすと考えられています。
高齢出産、妊娠中の感染症、早産、低出生体重などがリスクファクターとして報告されていますが、これらの影響は比較的小さいとされています。
重要なことは、ワクチン接種とASDの間には因果関係がないことが、大規模な疫学研究により繰り返し確認されていることです。
ASDの早期発見は、適切な支援の提供と予後の改善において極めて重要です。
乳幼児期における典型的な早期兆候には以下があります。
生後6-12ヶ月
・視線の共有の困難
・名前を呼ばれても振り返らない
・社会的な微笑みの欠如
12-18ヶ月
・指差しの欠如または遅れ
・模倣行動の困難
・言語発達の遅れ
18-24ヶ月
・共同注意の困難
・ごっこ遊びの欠如
・反復的な行動の出現
現在の診断プロセスは、多職種による包括的な評価に基づいています。
第一段階:スクリーニング
・M-CHAT-R(Modified Checklist for Autism in Toddlers, Revised)
・PARS(Pervasive Developmental Disorders Autism Society Japan Rating Scale)
第二段階:詳細な診断評価
・ADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule, Second Edition)
・ADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised)
・発達検査(新版K式発達検査、WISC-Vなど)
ASDに対する支援は、個人の特性とニーズに基づいた個別化されたアプローチが重要です。
応用行動分析(ABA)
ABAは、行動の原理に基づいてASDの子どもたちの学習と適応行動を促進する手法です。
特に早期集中行動介入(EIBI)は、2-6歳の幼児に対して週20-40時間の集中的な介入を行い、認知能力、言語能力、適応行動の改善に効果が示されています。
TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children)
構造化された教育環境を提供し、視覚的支援を活用してASDの人々の自立性を高める包括的プログラムです。
言語・コミュニケーション支援
✅言語聴覚療法
✅絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)
✅拡大・代替コミュニケーション(AAC)
✅デジタル技術を活用したコミュニケーション支援
現在、ASDの中核症状に対する根本的な薬物治療は存在しませんが、併存する症状に対しては薬物療法が用いられることがあります。
併存症状に対する薬物療法
✅易刺激性・攻撃性に対するリスペリドン、アリピプラゾール
✅注意欠如・多動性に対するメチルフェニデート
✅不安・強迫症状に対するSSRI
✅睡眠障害に対するメラトニン
感覚統合療法
多くのASDの人々は感覚処理の困難を抱えており、感覚統合療法は感覚刺激に対する適応反応を改善することを目的としています。
作業療法士による評価と介入が行われます。
ASDの人々は、様々な併存症を持つことが多く、これらの理解と対応が重要です。
精神医学的併存症
✅不安障害: 社会不安障害、全般性不安障害が高頻度で見られる
✅うつ病: 特に思春期以降に増加する傾向
✅注意欠如・多動症(ADHD): 約50-70%で併存
✅強迫性障害: 反復的行動と区別が必要
医学的併存症
✅てんかん: 約20-25%で併存
✅睡眠障害: 入眠困難、中途覚醒が多い
✅胃腸障害: 便秘、下痢、腹痛が高頻度
✅感覚過敏・鈍麻: 聴覚、触覚、視覚などの感覚処理の問題
幼児期(0-6歳)
この時期は脳の可塑性が高く、早期介入の効果が最も期待できる重要な時期です。
家族支援、療育、集団参加の準備が主な支援内容となります。
学童期(6-12歳)
通常学級での合理的配慮、特別支援学級・特別支援学校での専門的教育、放課後等デイサービスなどの福祉サービスの活用が重要です。
学習支援とともに、ソーシャルスキルトレーニングも重要な要素となります。
思春期・青年期(12-18歳)
アイデンティティの形成、性教育、進路選択、自立に向けた準備が重要なテーマとなります。
二次的な精神的問題の予防と対処も重要です。
成人期
就労支援、一人暮らしの支援、対人関係の支援、生涯学習の機会の提供が必要です。
障害者雇用促進法に基づく就労支援や、就労移行支援事業所の活用が重要です。
職場での理解と配慮
企業におけるASDへの理解は着実に進歩しており、多くの企業が多様性・包摂性(D&I)の一環としてニューロダイバーシティの観点を取り入れています。
職場での合理的配慮例
✅静かな作業環境の提供
✅明確で具体的な指示の提供
✅定型的な業務の割り当て
✅感覚過敏への配慮(照明、音など)
✅コミュニケーション方法の調整
教育現場での配慮
通常学級における合理的配慮として、以下のような支援が提供されています。
✅視覚的支援の活用
✅構造化された学習環境
✅個別の学習計画(IEP)の作成
✅感覚過敏への配慮
✅ソーシャルスキル指導
遺伝学的研究
全ゲノム関連解析(GWAS)や全エクソーム解析により、ASDに関連する新たな遺伝子や遺伝的バリアントが継続的に発見されています。
また、エピジェネティクスの観点からの研究も進展しています。
神経科学研究
機能的MRI、脳波、近赤外線分光法などの技術を用いた脳機能研究により、ASDの神経基盤の理解が深まっています。
特に、安静時機能的結合性や感覚処理、社会的認知に関わる脳ネットワークの研究が活発です。
治療・支援技術の開発
バーチャルリアリティ(VR)を用いたソーシャルスキルトレーニング、人工知能(AI)を活用した個別化教育システム、ロボットを用いた療育など、新しい技術を活用した支援方法の開発が進んでいます。
バイオマーカー研究
早期診断や治療効果の評価に役立つバイオマーカーの探索が行われています。
脳波、眼球運動、生化学的指標などが候補として研究されています。
個別化医療・個別化支援
遺伝的背景、神経生物学的特徴、環境要因を総合的に考慮した個別化されたアプローチの開発が期待されています。
一人ひとりの特性に応じた最適な支援方法の選択が可能になることが目標です。
予防的介入
高リスク児に対する早期の予防的介入の効果についての研究が進んでいます。
生後6ヶ月頃からの親子相互作用の改善を通じた予防的アプローチが注目されています。
成人期の支援体制整備
これまで小児期に焦点が当てられがちでしたが、成人期のASDの人々への支援体制の整備が急務となっています。
就労支援、生活支援、医療体制の充実が求められています。
2025年現在、ASDに対する理解は大きく進歩し、多様な支援方法が開発されています。
しかし、依然として多くの課題が残されており、継続的な研究と支援体制の整備が必要です。
最も重要なことは、ASDを「治すべき病気」として捉えるのではなく、「支援すべき特性」として理解し、その人らしい生活を送ることができるよう社会全体で支えていくことです。
ニューロダイバーシティの概念のもと、ASDの人々の多様性を尊重し、彼らが持つ独特の能力や視点を社会の資源として活かしていくことが、インクルーシブな社会の実現につながります。
今後も、科学的根拠に基づいた支援方法の開発と、社会的理解の促進を両輪として、ASDの人々とその家族がより良い生活を送ることができる社会の実現を目指していく必要があります。