発達障害のある人に精神疾患の併存が多い理由は、「発達障害という特性そのものが病気を生む」という単純な話ではありません。
臨床現場で見えてくる本質は、発達特性を持った人が、長期間にわたり社会や環境との不適合状態に置かれ続けることにあります。
発達障害のある人は、生まれつき情報処理や感覚、注意、対人理解のスタイルが多数派とは異なっています。
しかし社会の多くは「多数派の脳の使い方」を前提に設計されており、そのズレは本人の努力では簡単に埋められません。
それにもかかわらず、周囲からは「頑張ればできるはず」「気持ちの問題」「怠けている」と受け取られやすく、繰り返し否定的な評価にさらされます。
この積み重ねが、自己肯定感を静かに、しかし確実に削っていきます。
特に幼少期から学童期、思春期にかけて、叱責や失敗体験、対人トラブルが重なると、「自分は何をしてもダメだ」「どうせ分かってもらえない」という認知のゆがみが形成されやすくなります。
これは、うつ病や不安障害の発症基盤として非常に強力に作用します。
発達障害のある人が大人になって精神科を受診する際、主訴の多くが発達障害ではなく、抑うつ、不安、不眠、パニックといった症状であるのは、そのためです。
また、発達障害のある人は、日常生活そのものが高ストレス環境になりやすいという特徴があります。
音や光、人の声、予定変更、対人関係の微妙なやり取りなど、健常発達の人には気にならない刺激が、常に神経を消耗させます。
これを「普通に振る舞おう」と無理に抑え込む、いわゆるマスキングを続けることで、表面上は適応しているように見えても、内側では自律神経の過緊張が慢性化し、抑うつ状態や不安障害、心身症へとつながっていきます。
さらに、発達障害のある人は、困りごとを適切なタイミングで言葉にすることが難しい場合が多く、限界まで我慢してしまう傾向があります。
「これくらいで相談してはいけない」「迷惑をかけてはいけない」と考え続け、限界を超えたところで突然心身が破綻する、いわゆる燃え尽きや適応障害の形で表面化することも少なくありません。
これは、本人の弱さではなく、助けを求める回路が育ちにくかった結果です。
生物学的な側面も無視はできません。発達障害と不安障害、うつ病、双極性障害、強迫症などには、神経発達や神経伝達物質に関する共通の脆弱性があることが示唆されています。
ただし、これは「必ず精神疾患になる」という運命論を意味するものではなく、あくまで環境ストレスに対する感受性が高い可能性がある、という程度の話です。
実際には、支援の有無や環境の質によって経過は大きく変わります。
臨床で強く感じるのは、発達障害のある人が精神疾患を発症する最大の要因は、「特性を理解されないまま、長期間にわたり適応を求められ続けること」に尽きるという点です。
逆に言えば、早期から特性が理解され、環境調整が行われ、安心して失敗できる場が確保されていれば、精神疾患のリスクは大きく下げることができます。
専門家として最も伝えたいのは、発達障害のある人に精神疾患が多いのは、本人が弱いからでも、努力が足りないからでもなく、社会が特性に追いついていない時間が長すぎた結果だということです。
発達障害の理解と支援は、単なる「生きやすさの配慮」ではなく、精神疾患を予防し、人生を守るための本質的な医療・心理的支援なのです。
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発達障害ラボ
車 重徳