病院でWISC-Ⅴ(ウィスク5)検査を受け、その結果に保護者が納得できない背景には、単なる「結果への不満」では説明できない、いくつもの心理的・体験的要因が重なっています。
臨床の現場では、むしろその反応はごく自然なものとして理解されるべきだと感じています。
まず大きいのは、保護者がWISC-Ⅴ検査に対して無意識のうちに抱いている期待と、実際に提示された結果との間にズレが生じることです。
多くの保護者は、「この検査を受ければ、子どもの困りごとがはっきり説明され、学校や周囲が分かってくれる」「努力してきた親子の大変さが証明される」といった希望を心のどこかに持っています。
ところが結果が平均域だったり、思っていたほど極端な数値が出なかった場合、「こんなに苦しんでいるのに、数字では普通とされてしまうのか」という失望感が生まれます。
これは検査そのものへの不信というより、「救われなかった感覚」に近いものです。
また、WISC-Ⅴ検査の数値が、保護者の中にある子ども像と食い違う場合にも、強い違和感が生じます。
家庭で見ている子どもは、できることとできないことの差が非常に大きく、日常生活では困りごとが山ほどあるのに、検査結果では高い指標が示されている、あるいは逆に「こんなに賢いはずなのに、なぜこの数値なのか」と感じるケースもあります。
保護者にとっては、長年一緒に暮らしてきた実感の方が、初対面に近い検査者による数時間の評価よりも、当然ながらリアルに感じられるのです。
さらに、検査結果そのものよりも、「説明のされ方」が納得感に大きく影響します。
WISC-Ⅴ検査は非常に専門性の高い検査であり、単に数値を示されただけでは、その意味や限界を理解することは困難です。
「平均です」「問題ありません」といった言葉だけが強調されると、保護者は「困っている現実を否定された」と受け取ってしまいます。
本来は、数値の背景にある認知特性や、生活場面とのつながりを丁寧に説明する必要がありますが、そのプロセスが十分でないと、不信感が残ります。
保護者自身の心理的負担も、納得できなさに深く関係しています。多くの保護者は、これまで子育ての中で「育て方が悪いのではないか」「自分の対応が間違っていたのではないか」という自責の念を抱えてきています。
その中で検査結果が曖昧だったり、明確な説明にならない場合、「やはり自分のせいなのか」という不安が再燃します。
その不安から身を守るために、結果そのものを受け入れられなくなることも少なくありません。
また、WISC-Ⅴ検査が「診断を確定する検査」ではないという点が、十分に理解されていない場合もあります。
保護者の中には、「この検査で障害かどうかが白黒つく」と思って受検される方もいます。
しかし実際には、WISC-Ⅴはあくまで認知特性を把握するための一つの手段であり、診断や支援の必要性を単独で決めるものではありません。
そのギャップが、「思っていた答えが出なかった」という不満につながります。
臨床で強く感じるのは、納得できない保護者の多くが「結果を否定したい」のではなく、「子どもの困りごとを分かってほしい」「これまでの苦労を軽く扱われたくない」と願っているということです。
納得できなさは、子どもを守ろうとする親の切実な感情の裏返しでもあります。
専門家として大切なのは、保護者の「納得できない」という反応を問題視することではなく、その背景にある思いを丁寧に受け止めることです。
検査結果をもう一度、生活場面や具体的な困りごとと結びつけて説明し、「この数値で何が分かり、何が分からないのか」を共有することで、初めてWISC-Ⅴ検査は親子にとって意味のあるツールになります。
納得とは、数字を受け入れることではなく、理解と安心がつながったときに初めて生まれるものなのです。
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発達障害ラボ
車 重徳