WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査で全検査IQが高いにもかかわらず、学校の勉強が著しくできない、いわゆるアンダーアチーバーが生まれる理由は、「能力があるのに努力していない」という単純な話では決してありません。
臨床の立場から見ると、その背景には知能の高さと学校で求められる学習様式とのズレ、そして心理的・発達的要因の重なりがあります。
まず理解しておくべきなのは、WISC-Ⅴ検査で測定されるIQは「考える力の総合値」であって、「学校の成績を直接予測する数値」ではないという点です。
学校の学習は、理解力だけでなく、聞き続ける力、板書を写す力、課題に取り組み続ける力、ミスを修正する力、評価される形式に自分を合わせる力など、多くの周辺能力を同時に要求します。
知的理解がいくら高くても、これらの要素のどこかに大きな弱さがあると、成績には結びつきません。
特に多いのが、知能のプロフィール内に大きな凹凸があるケースです。言語理解や推理力が非常に高い一方で、ワーキングメモリや処理速度が弱い場合、授業のスピードについていけず、分かっているのに間に合わない、書けない、テストで力を出せないという状況が生まれます。
本人の頭の中では理解が進んでいても、アウトプットの段階でつまずくため、「勉強ができない子」に見えてしまいます。
また、発達特性の影響も大きな要因です。
ADHD特性がある場合、興味のない学習には注意を向け続けることが難しく、理解力があっても授業を聞き逃したり、課題に取りかかれなかったりします。
ASD特性がある場合は、学校の学習が前提としている「暗黙のルール」や「教師の意図」を読み取れず、学習のポイントを外してしまうことがあります。
これらは能力不足ではなく、学習様式の不一致によるものです。
さらに重要なのが、心理的要因です。知的に高い子どもほど、周囲の期待が高く、「できて当たり前」と扱われやすくなります。
その中で失敗体験が重なると、「どうせ頑張っても評価されない」「できない自分を見せたくない」という防衛的な姿勢が生まれやすくなります。
これは怠けではなく、自己肯定感を守るための無意識の反応です。
結果として、課題を避ける、テストで力を出さない、学習そのものから距離を取るようになります。
加えて、学校の学習内容が本人の認知特性や興味と合っていない場合も、アンダーアチーブは起こります。
抽象的な思考や独自の発想力に優れている子ほど、反復練習や一斉指導、正解が一つに決まっている学習に強い意味を見いだせず、意欲を失いやすくなります。
理解はしているが「やる理由が分からない」状態が続くと、学習行動は次第に低下します。
臨床で繰り返し感じるのは、アンダーアチーバーの多くが「できない子」ではなく、「能力を発揮できない環境に長く置かれてきた子」だということです。
知能の高さは、適切な支援や学習方法と結びついて初めて成果として表れます。
逆に言えば、環境調整や評価の仕方を変えるだけで、学習への取り組みが劇的に改善するケースも少なくありません。
専門家として強調したいのは、アンダーアチーブは本人の甘えや努力不足の結果ではなく、知能特性・発達特性・心理的経験・教育環境が噛み合わなかった結果として生じる現象だという点です。
高いIQを持つ子どもほど、「なぜできないのか」を丁寧に読み解き、理解の仕方に合った学び方と安心して挑戦できる環境を整えることが、何より重要になります。
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発達障害ラボ
車 重徳