WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査で全検査IQが低めに出ているにもかかわらず、学校の勉強についていけている子どもがいることは、臨床では決して珍しいことではありません。
これは例外的な現象ではなく、IQという数値が「学習のすべて」を表しているわけではないことを、非常に分かりやすく示しているケースだと言えます。
まず大切なのは、WISC-Ⅴ検査で測定されるIQが「理解力や思考力の潜在的な水準」を示す指標であって、「学校の学習をこなす力」をそのまま測っているわけではないという点です。
学校の勉強では、複雑な思考力以上に、指示を聞き取る力、課題に真面目に取り組む姿勢、繰り返し練習を続ける粘り強さ、教師の教え方に素直に乗る力などが大きく影響します。
これらの力はIQとは別の次元で育つものであり、IQが低めであっても十分に備わっている子どもは、学習場面で安定した成果を出すことができます。
また、このような子どもには、知能プロフィールの中に「学習に直結しやすい強み」があることが少なくありません。
たとえばワーキングメモリや処理速度が比較的保たれている場合、授業のテンポについていきやすく、板書を書き写したり、指示通りに課題を進めたりすることができます。
全体のIQは低めでも、学校生活で要求される実務的な力が噛み合っていると、「普通にできている子」に見えるのです。
さらに重要なのが、学習態度や情緒の安定です。
自分に自信があり、失敗しても立て直せる子ども、教師や保護者との信頼関係が安定している子どもは、分からないことがあっても質問したり、やり直したりすることができます。
理解に時間がかかっても、繰り返し練習を積み重ねることで、結果的に学習内容を身につけていきます。
これは知的能力というより、学習を支える心理的土台の強さによるものです。
家庭や学校の環境も大きく影響します。
授業内容が丁寧で、視覚的な支援や具体的な説明が多い、宿題や課題が過度に難しすぎない、必要に応じて補習や声かけがあるといった環境では、IQが低めの子どもでも無理なく理解を積み上げていくことができます。
本人の力に合ったスピードや量で学べている場合、「ついていけている」という状態が自然に成立します。
また、知的にゆっくりであっても、模倣力やルール理解が高い子どももいます。
周囲の友だちのやり方を見て真似ることができ、教師の求める形式を素直に再現できるため、評価上は大きな困難が目立たないこともあります。
これは学校教育の構造と相性が良い特性だと言えます。
臨床的に見て非常に重要なのは、こうした子どもたちが「無理をしていないかどうか」を見極めることです。
今はついていけていても、学年が上がり抽象度が高くなると、理解の負荷が一気に増す場合があります。
その一方で、基礎が丁寧に積み上がっていれば、高学年以降も安定して学び続けられる子どももいます。
したがって、この状態は「問題がない」と断定するものでも、「いずれ必ず困る」と決めつけるものでもありません。
専門家として強調したいのは、IQが低めでも学校の勉強についていける子どもは、努力できる力、環境に適応する力、支援を受け取る力をしっかり持っているという点です。
その力は非常に価値の高い資源であり、知能指数以上に将来の学びや生活を支える土台になります。
大切なのは、その子が「何によって支えられているのか」を正しく理解し、その支えを今後も途切れさせないことなのです。
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発達障害ラボ
車 重徳