458【8050問題】なぜ、我が子が引きこもりになった際、そのまま放置してしまうのか

 

8050問題の背景で、親が「大人になった我が子のひきこもりを長年そのままにしてしまった」ように見える状況は、決して無関心や怠慢の結果ではありません。

 

臨床の現場で親御さんの話を丁寧に聴いていくと、そこには動かなかったのではなく、動けなくなっていった過程がはっきりと存在します。

 

 

 

 

まず、多くの親は、わが子が社会から距離を取り始めた初期段階で、それを「一時的なつまずき」「疲れ」「本人のペース」と受け止めています。

 

就職に失敗した、人間関係で傷ついた、体調を崩した、といった出来事がきっかけで家にこもり始めた場合、親としては「今は休ませることが最善だ」「ここで無理に動かすと壊れてしまう」と判断するのは自然なことです。

 

この段階では、親は放置しているのではなく、守ろうとして待っているのです。

 

 

 

 

しかし時間が経つにつれ、状況は少しずつ変質していきます。

 

数か月が一年になり、やがて「外に出ない生活」が日常化していく中で、親の中には強い不安と同時に、「今さらどこに相談すればいいのか分からない」という戸惑いが生まれます。

 

子どもが未成年であれば、学校や児童相談所、医療機関といった相談先が比較的明確ですが、成人後のひきこもりについては、長い間、社会的な窓口が非常に分かりにくい状態が続いてきました。

 

その結果、親は問題を抱えながらも、孤立したまま家庭の中で抱え込むことになります。

 

 

 

 

さらに、親自身の心理的な要因も大きく影響します。

 

ひきこもりが長期化するほど、親は「自分の育て方が悪かったのではないか」「誰かに知られたら責められるのではないか」という強い自責感と恥の感覚を抱くようになります。

 

とくに8050世代の親は、「親の責任」「家の恥は外に出すな」という価値観の中で生きてきた人が多く、問題を外に出すこと自体が非常に高い心理的ハードルになります。

 

その結果、相談することが「助けを求める行為」ではなく、「失敗を公表する行為」のように感じられてしまうのです。

 

 

 

 

また、ひきこもり状態の子どもとの関係性も、親を動けなくさせます。

 

親が相談しようとすると、子どもが激しく拒否する、怒る、暴れる、「勝手なことをするな」と言う。

 

そうした反応を何度も経験するうちに、親は「これ以上刺激しない方がいい」「今は波風を立てない方がいい」

と考えるようになります。

 

これは諦めではなく、家庭内の破綻を防ぐための必死な選択です。

 

親にとっては、外部に相談することで子どもとの関係が壊れることの方が、何よりも恐ろしいのです。

 

 

 

 

経済的な理由も無視できません。

 

働かない子どもを長年支える中で、親は「今は自分が何とかしているからまだ大丈夫だ」と思い込むようになります。

 

これは現実逃避というより、厳しい現実を直視し続けることに耐えきれなくなった結果です。

 

そしてその「何とかしている状態」が、親の高齢化とともに限界を迎えたとき、初めて8050問題として表面化します。

 

 

 

 

臨床家として強く感じるのは、ひきこもりを長期間放置してしまったように見える家庭の多くが、実際には長年、誰にも頼れず、必死に踏みとどまってきた家庭だということです。

 

相談しなかったのではなく、相談できる場所が見えなかった。

 

動かなかったのではなく、動くことで失うものがあまりにも大きく感じられた。

 

その積み重ねが、結果として「時間が過ぎてしまった」状態を生み出しています。

 

 

 

 

8050問題の本質は、個々の家庭の失敗ではありません。

 

成人期のひきこもりに対して、「早期に」「安心して」「親子を切り離さずに」相談できる社会的な受け皿が、長い間ほとんど存在しなかったことにあります。

 

だからこそ、今求められているのは、「なぜ放置したのか」と親を責めることではなく、なぜ助けを求められなかったのかという構造そのものを見直すことです。

 

親が沈黙を選んだのは、無関心からではなく、愛情と恐怖と孤立の中で選ばざるを得なかった結果です。

 

その事実を理解することが、8050問題を本当に解決するための出発点になると、私は考えています。

 

 

 

 

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発達障害ラボ

車 重徳

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