近年の子どもたちの自己肯定感が著しく低い背景には、個人の性格や家庭だけでは説明できない、社会全体の構造的な変化があります。
臨床の現場で子どもたちと向き合っていると、「自分はダメだ」「どうせうまくいかない」という感覚を、あまりにも幼い段階から抱えている姿に、強い危機感を覚えます。
まず大きいのは、子どもが常に「評価され続ける環境」に置かれていることです。
学校では成績や態度、協調性が数値や言葉で比較され、家庭でも「できたか」「できなかったか」が話題になりやすくなっています。
さらにSNSや動画配信の普及によって、同年代や少し年上の「すごい子」「成功している子」を日常的に目にするようになりました。
その結果、子どもは自分自身を「あるがまま」で感じる前に、「他人と比べた自分」という視点でしか捉えられなくなっています。
自己肯定感が育つ前に、自己評価ばかりが肥大化してしまうのです。
加えて、現代の子どもは失敗する機会を安全に経験しにくくなっています。
失敗は本来、「やってみた結果うまくいかなかっただけ」という学びの材料ですが、今の環境では失敗がすぐに評価や記録、叱責につながりやすく、子どもは「失敗=価値の否定」と感じやすくなります。
そのため、挑戦する前から諦めたり、できない自分を守るために手を出さなかったりするようになります。
これが「どうせ自分はダメ」という感覚を強化していきます。
また、親や大人が良かれと思って行っている関わりも、自己肯定感を下げてしまうことがあります。
励ましのつもりで「もっとできるでしょ」「本気出せばできるのに」と言われ続けると、子どもは「今の自分は認められていない」と受け取ります。
条件付きの承認が積み重なることで、子どもは「できるときの自分だけが価値がある」という感覚を内面化してしまいます。
こうした中で育った子どもたちは、自分の気持ちや考えを安心して表現する経験が乏しくなり、「自分は何を感じ、何を望んでいるのか」が分からなくなっていきます。
自己肯定感の低さは、単なる自信のなさではなく、自分とのつながりが希薄になっている状態だと捉える必要があります。
では、どうすれば自己肯定感は回復するのでしょうか。
ここで重要なのは、「自信をつけさせる」「成功体験を増やす」といった表面的なアプローチだけでは不十分だという点です。
自己肯定感は、「できた自分を褒められること」よりも、「できなくても大切にされる経験」を通して育ち直します。
回復の第一歩は、子どもが評価から一時的に離れられる安全な関係を持つことです。
成績や行動を直ちに是正しようとせず、「そう感じたんだね」「つらかったね」と、感情そのものを受け止めてもらえる体験が必要です。
正解や改善策を急がず、気持ちを言葉にしても否定されない時間を積み重ねることで、子どもは少しずつ「自分はここにいていい」と感じられるようになります。
また、挑戦と失敗が許される環境を意図的につくることも重要です。
結果よりも過程に目を向け、「やってみたこと」「続けたこと」を価値として扱う関わりは、子どもに「存在そのものが認められている」という感覚を取り戻させます。
小さな選択を任せ、うまくいかなかったときにも関係が壊れない経験を重ねることが、自己信頼の回復につながります。
さらに、自己肯定感を回復させるには、大人側が「安心のモデル」になることも欠かせません。
大人自身が失敗を隠さず、弱さや迷いを言葉にし、「それでも大丈夫だった」という姿を見せることで、子どもは「完璧でなくても生きていい」というメッセージを受け取ります。
これは言葉で教える以上に強い影響を持ちます。
専門家として強く伝えたいのは、自己肯定感の低下は、子どもが弱いからでも、甘えているからでもないということです。
それは、評価と比較の中で生き延びようとしてきた結果であり、環境がそうさせたものです。
そして自己肯定感は、失われたとしても、関係の中で必ず回復できる力です。
時間はかかりますが、評価ではなく理解を、正解ではなく安心を積み重ねていくことで、子どもは再び「自分でいていい」という感覚を取り戻していきます。
それが、これからの子ども支援の最も重要な基盤だと、私は考えています。
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発達障害ラボ
車 重徳