臨床心理の立場から、障害を抱えるお子様同士の間で発生するいじめの問題について、その背後にある心理的・環境的な要因を深く読み解いていきましょう。
「障害があるのだから、お互いの痛みが分かって仲良くできるはずだ」という期待は、周囲の大人たちが抱きがちな切実な願いですが、実際の子どもの心理世界はより複雑で、時として残酷な側面を持ち合わせています。
障害児同士で衝突やいじめが生じる最大の理由は、彼らが抱える「特性の衝突」と「自己肯定感の低さ」にあります。
まず、特性の衝突について考えてみます。
例えば、音に対して極端に過敏な自閉スペクトラム症(ASD)のお子様と、衝動を抑えられず大声を出してしまう注意欠如・多動症(ADHD)のお子様が同じ空間にいれば、それはお互いにとって耐え難いストレスの源となります。
ASDのお子様にとって相手の声は「攻撃」と感じられ、それに対する自己防衛的な反応が、周囲からは「いじめ」や「攻撃」に見える行動として表出することがあります。
また、ソーシャルスキルの未熟さゆえに、相手が嫌がっているサインを読み取れず、執拗に構い続けてしまうことも少なくありません。
これは悪意というよりも、認知の特性上「相手の心の状態を推測する力」が育っている途上であるために起こる現象です。
さらに深刻な要因は、心理学的な「投影」という現象です。
障害を抱えるお子様は、日常生活の中で「できないこと」を指摘されたり、失敗を繰り返したりすることで、自尊心が傷ついている場合が多くあります。
自分自身が抱える「弱さ」や「不自由さ」を無意識のうちに嫌悪しているとき、目の前に自分と似た、あるいは自分より不器用な他者が現れると、その子の中に自分の嫌な部分を映し出してしまい、激しく攻撃してしまうことがあるのです。
自分より弱い存在を貶めることで、相対的に自分の優位性を確認し、辛うじて自尊心を保とうとする悲痛な心の防衛機作がいじめという形で現れます。
また、環境面の影響も無視できません。
障害児学級や放課後等デイサービスといった限られた閉鎖的なコミュニティでは、ストレスの発散出口が少なく、特定のターゲットに攻撃が集中しやすい「密室化」が起こりやすい傾向にあります。
加えて、大人の視線や評価を巡る「愛情の奪い合い」も背景にあります。
支援を必要とする彼らにとって、先生や親の関心は死活問題であり、自分よりも手のかかる子、あるいは自分を苛立たせる子が大人たちの注目を集めていることに対し、強い嫉妬心や疎外感を抱き、それがいじめへと転化することがあります。
「仲良くできない」のではなく、彼らは今、自分の特性をコントロールし、他者と健全な距離を保つための「学びの途上」にいるのです。
私たち大人がすべきことは、彼らに道徳的な反省を迫るだけでなく、まずは個々のストレスを取り除き、一人ひとりが「自分はこのままでいいのだ」と思える安全な居場所を確保することです。
自分を認められるようになって初めて、他者への想像力を持つ余裕が生まれます。
お子様たちが集まる場所で、特にどのような状況のときにトラブルが起きやすいと感じていらっしゃいますか。
具体的な場面をお聞きできれば、物理的な距離の取り方や、大人の介入のタイミングについてより詳細に検討できるかと思います。
発達障害ラボ
車 重徳