「最近の親は子どもを叱らなくなった」と言われることがありますが、その背景には単純な甘やかしではなく、時代の価値観や子育て観の大きな変化があります。
かつては上下関係や権威を前提としたしつけが一般的で、叱責や体罰も一定程度容認されてきました。
しかし現在は、子どもの権利や心理的安全性が重視され、強い叱責や否定的な言葉が子どもの自己肯定感を傷つけるという理解が広がっています。
その結果、「叱ること」自体に不安やためらいを感じる親が増えているのです。
また、発達障害やトラウマ、愛着の問題などに関する知識が広まり、「困った行動の裏には理由がある」という視点が共有されるようになりました。
以前なら単にわがままとされた行動も、今は背景を探ろうとする姿勢が強まっています。
そのため、衝動的に叱るよりも、まず理解しようとする傾向が見られます。
これは決して無関心ではなく、むしろ慎重さの表れとも言えます。
さらに、親自身が叱られて育った経験から、「あのような思いはさせたくない」と考える世代が増えています。
過度な叱責や否定的な言葉が心に残る体験をした人ほど、自分の子どもには同じ方法を取りたくないと感じます。
その結果、叱ることに強い罪悪感を抱き、距離を取ることがあります。
一方で、現代の親は孤立しやすく、周囲に相談できる大人が少ないという事情もあります。
昔は祖父母や地域社会が子育てを支えていましたが、現在は家庭内で完結することが多くなりました。
正解が分からない中で、強く叱って後悔するよりは、様子を見る選択をしやすくなります。
また、SNSなどで他者の子育てが可視化されることで、「厳しい親と思われたくない」という社会的な意識も影響しているでしょう。
ただし、叱らないことと境界を示さないことは同じではありません。
本来のしつけとは、怒りをぶつけることではなく、行動の枠組みを伝えることです。
最近の親が目指しているのは「叱らない」ことではなく、「傷つけない関わり」なのかもしれません。
その中で迷いや葛藤が生じているのが現状です。
大切なのは叱るか叱らないかという二択ではなく、子どもの尊厳を守りながら必要な境界をどう伝えるかという視点なのです。
発達障害ラボ
車 重徳