子どもに「無理させない」ようにし続けてしまった保護者の末路
「この子には無理をさせたくない。」
発達障害のある子どもや不登校の子どもを育てている保護者であれば、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。
実際、私自身も相談支援や心理支援の現場で、多くの保護者から同じ言葉を聞いてきました。
学校で傷ついてほしくない。
失敗して自己肯定感を下げてほしくない。
苦しい思いをさせたくない。
その気持ちは親としてとても自然なものです。
むしろ、我が子を大切に思っているからこそ生まれる感情でしょう。
しかし、ここで一つ考えなければならないことがあります。
それは、「無理をさせないこと」と「成長の機会を奪うこと」は時として紙一重であるということです。
私たちは子どもが転ぶことを恐れます。
でも、自転車に乗れるようになる子どもは、一度も転ばなかった子どもではありません。
何度も転びながら、それでも立ち上がった子どもです。
勉強も同じです。
人間関係も同じです。
社会に出ることも同じです。
人生の中には、適度な負荷が必要です。
もちろん、過剰な負荷はよくありません。
発達障害のある子どもに対して、周囲と同じ基準を無理やり押し付けることは苦痛になることがあります。
しかし一方で、少しの負荷さえ避け続けると、「頑張ったらできるようになる」という経験を積む機会そのものが失われてしまいます。
例えば、「嫌だからやらない」が毎回通る環境を考えてみてください。
宿題もやらない。
習い事もやらない。
人間関係のトラブルも避ける。
すると、その瞬間は楽になります。
親も子どもも安心できます。
しかし数年後、その子が社会に出たとき、どうなるでしょうか。
仕事には締切があります。
人間関係には我慢もあります。
苦手なことにも向き合わなければならない場面があります。
そのとき初めて、「嫌でもやらなければならないこと」に出会うことになります。
そして、それまで一度も練習してこなかった場合、大きな壁として立ちはだかることがあります。
WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査の結果を見ていると、高い能力を持っている子どもはたくさんいます。
言語理解が高い子。
流動性推理が高い子。
記憶力が優れている子。
しかし、その能力を活かせるかどうかは別問題です。
能力を活かすためには、「少し頑張ってみる力」が必要だからです。
実際、発達障害の支援においても重要なのは、「無理をさせないこと」ではありません。
「その子が乗り越えられる程度の挑戦を設定すること」です。
心理学ではこれを「適度な負荷」と呼びます。
成功確率が100%の課題では成長しません。
逆に成功確率が0%の課題では心が折れます。
少し頑張れば届く目標が、人を成長させるのです。
「無理をさせない」ことを最優先にし続けた保護者の末路とは、子どもが不幸になることではありません。
本当に怖いのは、子どもの可能性を信じられなくなってしまうことです。
子どもは弱い存在ではありません。
支えがあれば成長できる存在です。
だからこそ必要なのは、「無理をさせること」でも「無理をさせないこと」でもありません。
その子が少し背伸びできる環境を作ることです。
子どもの未来を守るとは、転ばない人生を与えることではありません。
転んでも立ち上がれる力を育てることなのです。
その力こそが、将来子どもが自分らしく生きていくための大切な財産になるのではないでしょうか。
発達障害ラボ
車 重徳