なんでも「子どもの希望をかなえてきた」保護者の末路
「子どもには苦労させたくない。」
「嫌な思いをさせたくない。」
「できる限り希望をかなえてあげたい。」
我が子を愛している保護者であれば、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。
特に発達障害のある子どもや、学校で苦労している子どもを見ていると、「せめて家では好きなようにさせてあげたい」と考えることもあります。
その気持ちは決して間違いではありません。
子どもの願いを受け止めることは、安心感や自己肯定感を育てる上でとても大切です。
しかし、ここで一つ考えなければならないことがあります。
それは、「子どもの希望を尊重すること」と「子どもの希望をすべてかなえること」は全く違うということです。
相談支援の現場では、「子どもの言う通りにしてきたのに、なぜかうまくいかない」という相談を受けることがあります。
ゲームをしたいと言えばゲームを買う。
学校を休みたいと言えば休ませる。
嫌なことは無理にやらせない。
食べたいものだけを食べさせる。
本人が望まないことは極力避ける。
最初のうちは親子関係も良好に見えます。
子どもも不機嫌になりません。
家庭内の衝突も減ります。
しかし数年後、思わぬ問題が生じることがあります。
それは、「自分の希望が通ることが当たり前」になってしまうことです。
人は成長する過程で、「思い通りにならない経験」を積み重ねます。
順番を待つ。
ルールを守る。
嫌なことにも取り組む。
相手の都合を考える。
こうした経験を通して、社会の中で生きる力を身につけていきます。
ところが、自分の希望が常に優先される環境で育つと、「我慢する力」や「折り合いをつける力」が育ちにくくなります。
すると学校や社会に出たとき、大きな壁にぶつかります。
学校の先生は自分の思い通りには動いてくれません。
友だちも自分の希望ばかりを優先してくれません。
会社の上司も自分の都合だけを考えてくれるわけではありません。
そのとき初めて、「世の中は思い通りにならない」という現実に直面するのです。
WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査を実施していると、高い知的能力を持つ子どもに出会うことがあります。
しかし、その能力を十分に発揮できない子どももいます。
その背景には、能力の問題ではなく、失敗経験や我慢する経験の不足が隠れていることがあります。
どれだけ頭が良くても、自分の思い通りにならない状況に耐えられなければ、社会生活は苦しくなります。
もちろん、だからといって厳しく育てるべきだという話ではありません。
大切なのは、「希望をかなえること」と「希望がかなわない経験」の両方を与えることです。
今日はゲームをしてもいい。
でも宿題もやる。
今日は休んでもいい。
でも明日はどうするか一緒に考える。
そのように現実との折り合いを学ぶ機会が必要なのです。
なんでも子どもの希望をかなえてきた保護者の末路とは、子どもがわがままになることではありません。
本当に怖いのは、子どもが「思い通りにならない人生」を生きる準備ができなくなることです。
親の役割は、子どもの願いをすべてかなえることではありません。
子どもが将来、自分の願いと現実の間で上手に折り合いをつけながら幸せに生きていけるよう支援することです。
愛情とは、与えることだけではありません。
時には待たせること、時には断ること、時には一緒に悔しさを経験することもまた、子どもの未来を支える大切な愛情なのです。
発達障害ラボ
車 重徳