WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査の検査者になる際に一番大事なこととは何か
WISC-Ⅴ(ウィスク5)検査を実施できるようになりたいと考える人は、公認心理師や臨床心理士をはじめ、教育や福祉の現場で子どもと関わる専門職の方が多いでしょう。
その際、多くの人は
「正しい実施方法を覚えなければならない」
「採点ミスをしないようにしなければならない」
と考えます。
もちろん、それらは検査者として欠かすことのできない基本です。
しかし、長年WISC-Ⅴ検査を実施し、多くの子どもや保護者と関わってきた立場からお伝えしたいことがあります。
検査者になる際に一番大事なことは、
「子どもの人生をより良くするために検査を実施する」
という目的を決して忘れないことです。
WISC-ⅤはIQを測る検査として知られていますが、本来の目的はIQを出すことではありません。
その子どもの認知特性を理解し、
「どのような環境であれば力を発揮できるのか」
「どのような支援が必要なのか」
を明らかにするための検査です。
つまり、検査そのものが目的ではなく、検査結果を子どもの未来につなげることが本当の目的なのです。
そのため、検査者は
「数値を出す人」
になってはいけません。
数値の向こう側にいる一人の子どもを見る姿勢が何より重要です。
同じ処理速度指標が80という結果でも、慎重に考えるため時間がかかる子もいれば、不安が強くて本来の力を発揮できなかった子もいます。
同じワーキングメモリの得点でも、注意がそれやすい子もいれば、緊張の影響を受けた子もいます。
数字だけを見れば同じでも、その背景は一人ひとり異なります。
また、検査中の子どもの表情や態度、問題への取り組み方、失敗したときの反応なども、重要な情報です。
「なぜ間違えたのか」
「どこでつまずいたのか」
を丁寧に観察することで、数値だけでは分からない支援のヒントが見えてきます。
経験豊富な検査者ほど、採点よりも観察を大切にしているのはそのためです。
さらに、検査結果を保護者へ伝える姿勢も非常に重要です。
保護者の中には、結果を受け取るまで何日も眠れないほど不安を抱えている方もいます。
そのような方に対して、
「ここが低いですね」
「平均より低いです」
と事実だけを伝えることは、検査者として十分とは言えません。
「この力は伸ばしていけます」
「このような環境では力を発揮しやすいですよ」
「家庭ではこんな関わり方がおすすめです」
と、希望につながる説明ができて初めて、検査は子どもの未来に役立つものになります。
そして、検査者は常に謙虚でなければなりません。
WISC-Ⅴの結果だけで子どものすべてが分かるわけではありません。
園や学校での様子、家庭での姿、保護者の思い、教師や支援者からの情報など、さまざまな視点を統合して初めて、その子の全体像が見えてきます。
検査結果は重要な情報の一つですが、それだけで子どもを判断してはいけないのです。
WISC-Ⅴ検査の検査者になる際に一番大事なことは、高度な検査技術でも、豊富な知識でもありません。
それらはもちろん必要ですが、その根底にあるべきものは、「目の前の子どもがこれからより幸せに生きられるよう支えたい」という強い思いです。
その思いがあるからこそ、検査は単なる心理検査ではなく、一人の子どもの未来を切り開くための大切な支援へと変わります。
優れた検査者とは、正確に採点できる人ではなく、検査結果を希望へと変えられる人なのです。
発達障害ラボ
車 重徳